コンビニエンスストアで導入が進む飲料補充業務を担うAIロボット。なぜTelexistenceは商用化を成功することができたのか。
2022年8月、コンビニエンスストアのファミリーマートが、店舗従業員に代わって飲料補充業務を担うAIロボットの導入を開始した。低温環境であるバックヤード内での飲料補充業務は、従業員への負荷が大きい。それをAIロボットが担うことで、作業負担の解消や最適な人員配置が行えるようになり、質の高い接客などの業務に集中することができる。導入は順次進められており、まずは主要都市圏を中心に300店舗が利用することが決まっている。
このAIロボットを開発するのは、富岡仁と佐野元紀が17年に共同創業したTelexistence。ただ、最初から小売業にターゲットを絞っていたわけではなかった。むしろ真逆で、CEOの富岡は、創業から7カ月かけて国内96社を駆け回り、東京大学名誉教授で同社会長である舘暲の研究成果を社会実装すべく、AIロボットの応用先を探した経緯がある。
決め手となったのは18年の上海出張だ。中国で広がり始めたコンビニの無人店舗を視察した際、「これだと直感したんです」と富岡は振り返る。現地の無人店舗は、決済周りなどは自動化されていたものの、商品の補充だけは人手で行っていたのだ。
自律型の作業ロボットを手がける会社はいくつもあるが、実証実験からステージを進められずにいるケースは少なくないTelexistenceが商用化に成功したのは、20年9月から自社でファミリーマートとローソンのフランチャイズ経営をしてきたことが大きい。意識したのはスピード感だ。「世の中にないソリューションを生み出すので、何ができればお客さんは満足するのかという明確なゴールがありませんでした。ただ、よその店舗で実証実験をやるのでは時間がかかりすぎる。それならば、自らが実際の現場で使いながら最適化していくほうが、最短距離で実用的なものができると考えたのです」とCTOの佐野は語る。
ロボットの導入時にまとまった資金を必要としないRaaS(Robotics as a Service)という月額課金制のビジネスモデルを採用したのも、実体験を重ねてきたからだ。富岡が言う。「フランチャイズのオーナーをやるわけですから、当然、店舗で利益を出すことへの意識は高まります。そして痛感したのが、コンビニは社会インフラだということ。実証実験をやる数日間だけ動いても意味がなく、ロボットには365日24時間の安定的な稼働が求められるのです」。
こうした課題を着実にクリアしていくことで、最初は様子見だった小売り企業の関心も次第に高まり、冒頭の本格導入に結実した。23年7月には、シリーズ B で総額230億円の資金調達を実施。生産体制や事業展開を強固にするための下地も整った。出資元のうち、ソフトバンクグループとは北米を中心としたロボティクス事業の推進で戦略提携。EMS世界大手の台湾フォックスコンとは、AIロボットの次期モデルの生産技術確立と量産で連携していく。
AIロボットの量産とRaaSモデルの確立は、世界的に見ても珍しい。Telexistenceが目指すのは、あらゆる単純労働を自動化し、社会に新たな余剰を生み出すことだ。富岡は、「25年末までに米国への商業導入を、26年までに国内の全コンビニ店舗5万6000軒への導入を成し遂げたい。本気です」と野心的な展望を語る。
富岡 仁◎スタンフォード大学経営大学院修士。三菱商事を経て、2017年にTelexistenceを共同創業。
佐野元紀◎東京大学大学院情報理工学系研究科にて修士修了。ソニーを経て、2017年にTelexistenceを共同創業。