国内

2023.11.24 08:40

スポットワーク市場の立役者。急成長を裏で支える「大人の振る舞い」

小川 嶺|タイミー

自分は今楽しいのか

会食相手に必ず尋ねる質問がある。
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「『今楽しいですか』と聞くんです。答えは人それぞれですが、みなさんが何をエネルギーにして経営しているかがわかって勉強になる。そういう質問をするということは、きっと私自身にもそう問いたいのでしょうね」

自分は今楽しいのか──。小川がそう自問自答したくなるのは、立ち位置に迷った時期があったからだろう。コロナ禍で飲食業界の求人が激減したとき、物流業界の開拓を仲間に任せ、自分はフードデリバリーの新規事業立ち上げに集中した。しかし頓挫して数カ月で撤退。自分がいなくても会社が回る様子を見て、一時は代表取締役から退くことも考えたのだ。

「あれ以降、自分は経営者としてバリューを発揮できているのかと常に考えるようになりました。組織づくりや大企業のお客様へのグリップに注力しているのも、自分にしかできないことを考えた結果でした」
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勢いに任せて走るだけの起業家ではなくなった小川が現在、力を入れている仕事がもうひとつある。ロビイングだ。非正規ワーカーのマッチングを行うサービスは、やり方を間違えると格差の固定化に加担するおそれがあり、タイミーは創業当初からこの負の面を徹底的に排除すべくサービス開発に取り組んできた。小川は政治家や役人と会って、「タイミーが社会にとって悪の存在にならないようにするにはどうすればいいか」と相談しているという。

「お話ししていると、賃上げやリスキングへの期待が大きい。現状、非正規はスキルや信用が見えにくいため、全員一律の給料になってしまっています。そこで、コツコツと頑張ってスキルが上がっている人をうまく可視化する仕組みを準備中です。しっかり機能させて日本に貢献したいですね」

最後に先輩経営者によく尋ねる質問──今楽しいか?──を本人にぶつけると、「楽しいほう」と返ってきた。「ほう」という表現には中途半端な印象がある。自分の存在意義にまだ迷いがあるのかと思ったが、真意はまるで違った。

「今も楽しいですよ。ただ、タイミーはもっと成長して、いずれグローバルで圧倒的な成果を出す会社になる。そのときは今の比ではないくらいメチャクチャ楽しいはず。だから今は『ほう』なんです」


小川 嶺◎1997年生まれ。立教大学経営学部卒。高校生のときにリクルートやサイバーエージェントでのインターンを経験。17年、アパレル関連事業を立ち上げるも1年で事業転換を決意。18年、タイミーのサービスを開始。

文=村上 敬 写真=小田駿一

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