経済

2023.11.08

円安で好調な企業と苦しい家計 「所得減税」の効果はいかに

日本銀行は10月31日の金融政策決定会合で、イールドカーブ・コントロール(YCC)の再柔軟化を決定しました。10年国債利回りの1%超えを容認するという「微修正」です。大規模金融緩和の路線に変更なしと受け取られ、円安基調が続いていますが、円安への過度な悲観論こそが国民のマインドを冷やすのではないでしょうか。

11月6日の日経新聞によると、日本企業の業績が堅調です。2023年4~9月期決算を集計したところ、純利益が前年同期比3割増と、最高益を更新するペースです。円安は輸出企業にとってプラス、さらにインバウンドでも追い風になることが今回の決算で明確に示されたと思います。逆に、円安でなければどうなっていたか、想像に難くないでしょう。

一方で、恩恵を受けていない部分もあります。それは「個人の給与」です。企業側がここまで浮上してきたのですから、賃上げを実現するところまでやり切って欲しいところです。

植田和男・日銀総裁の会見に話を戻せば、何としても日本をデフレから脱却させるという意志を感じさせる内容でした。が、染みついたデフレマインドから国民を解放させるには、相当の手腕が問われそうです。微修正に至った経緯は、7月の金融政策決定会合の時には「1%までは上昇しない」と想定していたにもかかわらず、思ったよりも足元で長期金利が上昇したことによります。

金利が上昇するには、2つの理由があります。

1. コストアップによる物価上昇に伴い金利が上昇
2. 経済の体温が温まり、経済成長に伴い金利が上昇

理想としては2ですが、現状は経済が温まっているというより、コストアップによる要因が大きいです。さらに、150円を超える円安では、家計負担は年間10万円ほど増えるという試算もあります。そうしたこともあり、政府は所得税などの4万円減税、非課税世帯への7万円給付に動き出しています。

政府の減税策は評価できる部分がありますが、目の前の生活費に消えていき、景気浮揚策には繋がらないでしょう。さらに、減税策にもかかわらず支持率が低下している点から考えると、国民の不安が明らかに拭えていません。「1回の減税」と明言していますが、それでは「本当に国民生活の事を考えているのか?」と不安になるばかりです。

「消費減税」であれば、同じ出動金額でもGDPへのインパクト、経済効果は2倍あります。ただ、消費減税は与党内でも議論が大きく分かれるため、実現可能な所得減税で手を打ちたいのでしょう。

所得減税を選ぶしかなかったのであれば、「物価上昇に賃金上昇が追いつくまで、減税を早急に始動する」というメッセージを国民は待っています。

文=馬渕磨理子 編集=露原直人

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