“マネジメントで「いい人」になるのは、やめなさい”と帯文にあるように、本書は、リーダーになったら「仮面」の力で「素顔」を隠し、人間関係に関してもいかなるときも「個人的な感情」を横に置くべし、と諭す。そして、あくまでもロジックにもとづいた声がけやルール設定、評価をすることができればカリスマ性も、人間的魅力も不要、もちろん、内向的でも、声が大きくなくてもいい、と読者を勇気づけもするのだ。
著者の安藤広大氏は2013年、人と会社を成長させるマネジメント方法「識学」に出会って独立。識学講師として数々の企業の業績アップに貢献してきた人物だ。2015年、識学の普及をより加速させる目的で、会社組織としての「識学」を設立、2019年、創業からわずか3年11ヵ月でマザーズ上場を果たした。3500社以上の導入実績がある。
そもそも「識学」とは何かであるが、組織内の誤解や錯覚がどのように発生し、どのように解決できるか、その方法を明らかにしたマネジメント法だという。2019年度に新規で上場した会社のうち7社が導入しており、「いま、最も会社を成長させる組織論」として爆発的な広がりを見せている。
そして、冒頭の『リーダーの仮面』は、「識学」のメソッドを元にマネジメントのノウハウを伝えた1冊だ。主な想定読者は初めて部下やスタッフを持つ人、いわゆる「中間管理職」だ。本書によれば、リーダーがフォーカスすべきなのはたった5つのポイントのみ。「ルール」「位置」「利益」「結果」「成長」だ。
そして、「組織マネジメントには『数学』や『物理』のように、公式がある」「できる人、できない人の差がつかず、やれば誰でも成果が出せる」という。
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読者には、ついつい「いい上司」でありたいと思ってしまう多くの内向型のリーダーが含まれるのではないか、と想像しながら、本書の編集担当者、ダイヤモンド社 書籍編集局第一編集部の種岡健氏に聞いてみた。
──なぜ、本書はここまで読まれているのでしょうか?
リーダーにとって「優しさ」と「厳しさ」はどちらも重要なものでしょう。しかし、時代的に「厳しさ」のほうは圧倒的に語られることが少なくなりました。
私が読んできたリーダーシップ書の主流は、「面倒見がよくて優しいリーダー」「人間味があって尊敬できるリーダー」を理想として描かれていました。それにより、パワハラやブラック企業が減り、若手が働きやすい職場が実現するというメリットがあったと思います。
しかし、その反動で、パワハラになることを恐れるあまり、「部下に指示ができない」「厳しく指導ができない」という中間管理職の新たな悩みも生み出しました。
その結果、中間管理職の業務が増えたり、部下に向き合う時間が長引いたりして、「疲弊」しているのです。
そうした中で、「厳しさ」の部分を補うために、『リーダーの仮面』は受け入れられたのだと思います。
『リーダーの仮面』では、リーダーがやるべきことを徹底的にそぎ落とし、これまで「面倒見」「人間味」として語られてきたことをいっさい排除しています。さらに、「それは仮面でいい(本当のあなたではない)」という著者独自のメッセージが、絶妙にそれを受け入れやすくしたと思います。