一人の女性の人生を変えた 謎多きルワンダの「牛糞アート」とは

新コンセプトの白一色のイミゴンゴを手にする加藤さん 

そしてルワンダで、人生を一変させたイミゴンゴと出会う。
advertisement

「カフェの壁やホテルのロビーなどに掛けられている幾何学模様の絵が、ずっと気になっていました。ある時、それが、絵画ではなく牛糞でつくられた立体的なアートだということを知りました。元々美しいデザインだなとは思っていたのですが、その意外性と奥深さに心を奪われました」

その後、加藤さんはルワンダ国立図書館やスポーツ文化省、アーカイブ施設などに足を運び、イミゴンゴについて調べた。ところが図書館に文献や資料がほとんど存在せず、インターネット上にも深く踏み込んだ情報はなかった。

「ないなら自分で調べよう!」
advertisement

そう決意した加藤さんは、イミゴンゴの底なし沼にはまっていった。

イミゴンゴとは

イミゴンゴは、1854年まで現在のルワンダ南東部に存在したギサカ王国の王子が、来賓をもてなすためにつくり始めたと言われている。幾何学模様を組み合わせたような柄に、白・黒・赤・灰色で彩色されたとてもシンプルなデザインが特徴だ。

多様な空間に調和するので、壁に一枚イミゴンゴを飾るだけで部屋の雰囲気がガラッと変わる。近年では、ヨーロッパやアメリカで展覧会が開かれるなど、ルワンダ独自の伝統アートとして世界的に知られ始めている。
イミゴンゴを飾るだけで部屋の雰囲気は一変する(写真提供/加藤さん)

原料となるのは、生後2カ月〜1年ごろの仔牛の糞。その理由は、やわらかい草と母乳を半々くらいに摂取しているからだという。糞と聞いてまず頭に浮かぶ匂いもまったくない。粒子を細かくした灰と混ぜられているため、新しい畳のような心が落ち着く香りがする。

古くは部屋の壁に直接描くのが主流だったが、時代の変化と共に現在はB4〜A3程度の木版に描くことが一般的になっている。その制作手順は以下の通り。
イミゴンゴの制作過程

1. 木版にチョークで下絵を書く
2. 下絵に沿って灰と混ぜて粘土状にした牛糞を高さ5ミリほどの三角錐になるよう親指と人差し指で押し乗せる
3. 数日間、日陰で乾燥させる
4. やすりがけをして表面をなめらかにする
5. 下塗りをして日陰で1日乾燥させる
6. デザインに合わせ、白、黒、赤、灰色で彩色する
7. 日陰で1日乾燥させる
8. やすりがけをする
9. 6~8を3度ほど繰りかえす
10. 完成

完成までは数週間かかる。すべて手づくりで制作された作品は、日本を始め世界中から購入可能だ。
次ページ > ルワンダでの惨劇

文=下村靖樹

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事