誰が蚕を育てるのか
宇宙飛行士は、困難で骨の折れるタスクをたくさんこなすよう訓練を受けている。ゆえに、簡単ではないとしても、飼育法を身につけることはできるだろうとバイオプロセスのエンジニアでコーネル大学名誉教授のジーン・ハンターはいう。しかし、植物の葉を集めることや、死んだり傷を負ったり病気になったりした蚕の選別といった単純な作業は、ロボットを使う方が良いかもしれないとハンターは述べている。
宇宙船内のリサイクルを担う
将来的な宇宙への有人ミッションにおいて、本来なら「ごみ」となるバイオマスの一部を、蚕のような生物を使って食物に変換させるやり方は、検討すべき選択肢となるだろうとウィーラーは指摘する。これによって単位面積あたりの食物生産量を増やせる一方で、生命維持のために必要な植物栽培エリアの面積を減らすことができる可能性があるというのだ。気になる蚕の味は?
ハンターによれば、蚕の味は、食べていれば慣れてくるとのことだ。サナギには長鎖高度不飽和脂肪酸が豊富に含まれており、そのため魚のような味や匂いがするという。NASAジョンソン宇宙センター所属の生命維持装置技術者ダニエル・バルタはメールで、有能な宇宙飛行士は、ミッションを成功させるために必要であれば何でも食べることになっていると回答した。しかし、常にそうとは限らない。宇宙飛行士も人間であり、メニューのマンネリ化によって生じる「飽き」は現実的な懸念だとバルタは指摘する。
国際宇宙ステーション(ISS)の米国区画に滞在する宇宙飛行士に提供される標準的なメニューは200種類ほどの袋入り加工食品に限られている。食事が好みのものではないと、食べられる量が少なくなり、これが栄養不足の問題を引き起こすおそれがあると、バルタは述べる。食品に含まれる栄養分だけでなく、食事として受け入れられるかどうかという点も重要だというのだ。
バルタによると、NASAは現時点では、将来的なミッションにおいて昆虫を食料にすることを検討していないものの、1981年には「昆虫:栄養源の選択肢」と題した包括的な外部研究を依頼したとのことだ。
では、蚕は本当に宇宙飛行士の食料となるのだろうか?
もし宇宙飛行士が蚕の味を気に入れば、脂質およびタンパク質の有用な供給源となり、植物が多くを占める食事を補完することができるかもしれないとハンターは述べる。
ゆくゆくは、月あるいは火星での長期滞在環境において、蚕は人間のサステナブルな食料として使われるかもしれない。また、蚕が宇宙空間で紡ぎ出す絹繊維は、布地だけでなく、タンパク質に転換して人間の食料にすることもできるだろう(中国は2016年、軌道上実験モジュール「天宮2号」で蚕6匹を飼う実験を行なっている)。
もちろんこうしたアイデアは、国際宇宙ステーションが滞在する低周回軌道や、地球と月のあいだの空間における短期間のミッションでは実用的とは言えない。しかし、私たち人類が本気で月や火星を長期居住が可能な空間にしようとするなら、蚕が人間のお供をすることは十分あり得る話だ。
(forbes.com 原文)