量子コンピュータの実用化は、10年以上も先になる可能性もあるが、そのテクノロジーは新薬の開発や暗号化の解読、株式市場の変動予測など、さまざまな分野での活用が期待されている。Atlantic Quantumの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のバラス・カンナンは2022年に同社を設立し、マサチューセッツ工科大学(MIT)のスタートアップ支援機関The Engineが主導したシードラウンドで900万ドル(約13億4000万円)を調達した。
従来のコンピュータが「0か1か」の「ビット」で情報を処理しているのに対し、量子コンピュータの計算単位は「量子ビット(qubit、キュビット)」と呼ばれ、0でもあり1でもある確率的な「重ね合わせ」を利用している。科学者たちは、従来のコンピューティングよりも優れた量子ビットを作ることに苦心しているが、Atlantic Quantumはその目標に近づいたと述べている。
「問題は、量子コンピュータの実現が可能かどうかではなく、いつそれが実現できるかだ。実現が50年後にならないようにする必要がある」とカンナンは述べている。
量子コンピュータの性能は、量子ビット数やエラー率、計算可能時間(コヒーレンス時間)などが基準とされており、Atlantic Quantumが開発した技術アーキテクチャは、現状で2量子ビット回路で99.9%の精度を実現したという。
一方のIBMは、433量子ビットを備えた量子プロセッサ「IBM Osprey」を発表している。だがAtlantic Quantumの主席研究員レオン・ディンは、2007年以来使用されている標準的な回路に代わる最初の主要な量子ビットアーキテクチャを提示している点で、同社の研究成果は注目に値すると述べている。さらに、エラー率が低くなれば、量子コンピュータの複雑さが軽減され、必要な回路の数も少なくなる可能性があるという。
Atlantic Quantumにとっての次の目標は、システムの量子ビットの数を増やしながら、エラーを少なくすることだという。
特許取得でIBMやグーグルに先行
Atlantic Quantumは先日、国防用の量子プロセッサを作るために米空軍の研究所と125万ドルの契約を結んだことも発表した。同社はここ最近、マサチューセッツ州ケンブリッジに初の研究開発施設を開設し、シャンデリアのような外観のデバイスで量子コンピュータを駆動していることや、6月にスウェーデンにチップ製造のための子会社を設立したことを発表した。カナンCEOによると、同社はこの分野の主要な特許を取得しており、IBMやグーグルのような大手がその設計に追いつくのは「かなり困難」だという。カナンCEOは「私たちは多くのIP(知的財産)を所有している」と説明。「当社は、標準よりもはるかにシンプルな量子ビットの制御方法を生み出した」と語った。
(forbes.com 原文)