手を取り合い、世界に出ていく
肝は、文化を経済としっかり接続していくことだ。日本人の経済感覚には「いいものを安く」という考え方がマントラのように染み付いている。しかし、これから必要なのは「希少なものを高く」という考え方だ。そのためには、思想や哲学を体験に変え、上質でラグジュアリーなブランド価値をつくり出す気概をもった起業家が必要だ。日本が文化大国になるためには、文化の価値を現代の文脈で再解釈し、世界に発信し、事業化していく文化起業家、「カルチャープレナー」が必要なのだ。文化と経済は、水と油ともいわれる。しかし、文化のつくり手と、その文化を価値あるプロダクトや体験にする事業家が手を取り合って、世界に出ていくという挑戦には、大きな価値がある。一方で、ただ起業家を支援するだけでは十分でない。生活文化であれ伝統文化であれ、日本人一人ひとりが生活者として日本から生まれた文化を積極的に学び、誇りをもち、楽しみ、育てていく意識変革も必要になる。
これは檄文だ。食、お酒、工芸、建築、文学、アニメなどの各分野からカルチャープレナーが100人生まれ、世界的なラグジュアリーブランドが10個誕生したら?それこそ、日本の希望の物語になるのではないだろうか。
このビジョンの実現には多くのハードルがある。いかに文化にお金を流す仕組みをつくるか。いかに、日本文化の価値を海外の文脈に翻訳できるか。いかに、高い価値を付与する考え方をビジネスに組み込んでいくか。いかに、水と油の文化と経済が手を取り合えるか。
CULTURE-PRENEURS30は、そういうビジョンを将来体現できるかもしれない日本の未来のつくり手の可能性を問う企画だ。そして僕自身も、この文化起業家を育て、海外に出していく生態系をつくっていきたい。
日本のスタートアップエコシステムづくりも、約20年かかった。同じように、文化起業家、すなわちカルチャープレナーのエコシステムづくりがこれからの20年でできたなら、日本は世界でリスペクトされる文化大国になれるかもしれない。そんな未来を一緒につくりませんか。
さそう・くにたけ ◎東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科修士課程修了。P&Gにてファブリーズ、レノアなどのマーケティング、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ヒューマンバリュー社、ソニーを経て独立。企業や自治体のビジョンデザインを得意とする。著書に『理念経営2.0』(ダイヤモンド社、2023年)など。多摩美術大学特任准教授。