経営・戦略

2023.09.29 17:30

スラムダンク人気で注文殺到の日本酒。危機を救ったのは?

田中友梨

ヒットをつくり、危機を支えたホームページ

実際に、ホームページを開設したおかげでビジネスが一気に拓かれた中小企業がある。

それは、日本、さらには中国で今大いに注目を集めている酒蔵「三井の寿(みいのことぶき)」(株式会社みいの寿)だ。福岡県三井郡にある創業1922年の酒蔵だが、最近まで自社のホームページがなかった。

注目のきっかけは人気マンガ「スラムダンク」。作中に登場する三井寿(みついひさし)というキャラクターの名前の由来が、日本酒「三井の寿」なのだ。

スラムダンクといえば、映画「THE FIRST SLAM DUNK」が昨年12月に日本、今年4月には中国で公開された。同社は本作の中国公開に合わせて、「三井の寿」のサイトをオープン。言語は中国語、英語にも対応した。

本作は中国での封切りからわずか10日で、月間公開作品のなかで興行収入トップを記録。北京の映画館では朝から深夜まで日本語版と中国語版が、1日計十数回も上映されるほどの大ヒットとなった。

そしてその人気に乗って、日本酒「三井の寿」にも注目が集まる。中国国内ではすぐに売り切れてしまい、ネットで酒蔵のことを知った中国人が、直接日本に買いに訪れるという状況にもなった。

日本国内でも、フジテレビ系『めざましテレビ』や日本テレビ系『ZIP!』で取り上げられ、さらに西日本新聞の記事がヤフーニュースに転載されたことで、注文が殺到。問い合わせの電話が鳴り止まず、職員では対応できないほどだったという。

そこで緊急対応として、ホームページの問い合わせフォームを閉鎖。中国語表記のサイトでは「酒蔵を直接訪問しても購入できない」旨を掲載。ようやく中国からの訪問客は沈静化することとなった。

人気の過熱、そして注文の沈静化。両方の局面でホームページが活躍したのだった。

ホームページはデジタル化の第一歩?

中小零細企業にとって、ネットでの情報発信の必要性はますます高まっている。

近年は有効求人倍率が高止まりし続けており、中小企業の採用難は収まる気配がない。人材採用の面からも、ネットでの情報発信は「まったなし」の状況だ。

まずは、デジタル化の第一歩であるホームページ作成を、地方から進めているラシン。この秋には中小零細企業のEC化支援も計画している。昨今注目を浴びる「生成AI」のような派手さはないが、実はこの国で最も必要とされているデジタル化事業かもしれない。

文=下矢一良

ForbesBrandVoice

人気記事