モノとヒトとの関係をつくる言葉の力
私がいちばん尊敬するクリエイティブディレクターでありコピーライターの小霜和也氏。2年前に亡くなられた彼から、“コピーライティングで重要なのは、モノとヒトとの関係を言葉によってつくること”という趣旨の話を伺ったことがある。コピーライティングは広告業界のことだと思われがちだが、本質をそのようにとらえれば、黒龍酒造の水野氏が酒の一つひとつを丁寧に説明してくれた言葉そのものが、ヒトとモノとの関係をつくるコピーライティングのようなものだったのだと感じる。言葉によってヒトとモノの関係をつくることは、これからの時代にとても大事なことかもしれない。日本が豊かになってすでに何十年もたち、昔に比べてまったく新しいカテゴリーが誕生することは相対的に少なくなってきた。そしてその新カテゴリーがコモディティ化していくスピードも早くなっている。多くのモノが既存のカテゴリーのなかで生み出されている。
酒もそうだし、シャツや靴、食べ物やスマートフォンだってそうだろう。こうしたモノに対して絶対的数値で良し悪しを評価するのは難しく、その価値は人によって異なってくるはずだ。
一方で、それぞれのモノには、独自の特徴や背景が存在している。今後、言葉によってそのモノとヒトとの関係にストーリーを紡ぐことが、生活者自身の体験をより良くしていくためにとても大切な要素になるだろう。モノやサービスが以前よりもハイコンテクストな価値を求められる時代であり、それを伝えていく言葉があらためて注目されていく。そんなことを黒龍酒造「ESHIKOTO AWA」の泡酒を飲み酔っ払いながらぼんやりと考えていた。
なかやま・りょうたろう◎マクアケ代表取締役社長。サイバーエージェントを経て2013年にマクアケを創業し、アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake」をリリース。19年12月東証マザーズに上場した。