海外をターゲットにすると戦略が変わる
——島田さんは、日本発のグローバルヒットを仕掛けるにあたってどのような課題があると考えますか。島田:日本の音楽市場はアメリカに次いで世界第2位。市場規模が大きいがゆえに、日本で成功すれば、あえて海外に出る必要がないという状況があります。ですので、日本国内での成功を目指すのか、海外をターゲットにするのかでは、戦略がまったく変わってきます。
これまでの日本のアーティストは、日本で成功した後に海外で売ればよい、いう戦略をとってきました。しかし、海外で売れたいのであればグローバルのファンやオーディエンスに認められるようなアーティストになる必要があります。そのためには、例えば、最初から世界で活躍するプロデューサーと組むとか、世界で通用する歌唱力やダンスのテクニック、ビジュアルも必要です。
さらに、楽曲だけでなくパーソナリティを理解してもらうために、世界の共通言語である英語を話せること。完全に流暢である必要はありませんが、アメリカのトーク番組に出て自分の考えをきちんと言えるくらいのセルフプロモート力が必要かなと思っています。そうすれば日本のアーティストも世界に打って出られるでしょう。
和田:アメリカで「88rising」(アジアのカルチャーシーンを世界中に発信するレーベル)を見ていたら、「アジア、イケてるよね」という雰囲気も感じます。ですが、アジアと言ってもインドネシアや韓国に焦点が当たっていて、日本はあまり注目されていません。
だからこそ、日本のアーティストには勝機がすごくあると思っています。現在、海外で売れている日本の楽曲は、YOASOBIやジブリのサントラなどアニメ関連のものが多いですが、アニメに限らずそういうカルチャーフィットは大事だと考えています。日本の4人組ダンスボーカルユニット「新しい学校のリーダーズ」がアメリカですごくウケているのも、“セーラームーンみたいだから”という記事を読んで「なるほどな」と思いました。
——どのようなマーケティング戦略が有効なのでしょうか。
島田:ワーナーミュージック・ジャパンが重視しているのは、ファンとのエンゲージメントです。アーティストとその曲が好きな世界中のファンをつなぐことができれば、それはアウトバウンドになり世界戦略につながっていきます。
アーティストや楽曲が好きというポイントからオーガニックに生まれてくるファンとのエンゲージメントを、スピルオーバーさせていきたい。それを実現するツールは、ファンが集まるプラットフォームだと考えています。7月18日に、ワーナー・ミュージック・グループがTikTokとライセンス契約を拡大したのも、ファンとのエンゲージメントをより深めていくためです。
これにより、Warner Music Groupの楽曲が、TikTokの音楽ライブラリで利用できるようになりました。エンゲージメント向上だけでなく、ロイヤリティをアーティストに還元する仕組みを一緒につくり、ビジネスとして正しい姿にしていきたいという考えもあります。