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2023.09.06 16:00

甘くない砂糖業界。マネージ力で突破する

Forbes JAPAN編集部
アメリカ赴任中の01年には9.11の同時多発テロを経験した。三井物産はミッドタウンにあって無事だったが、航空機が突っ込んだ世界貿易センターは金融機関のオフィスが多く、時間帯が違えば訪問していた可能性があった。常に危険と隣り合わせの環境が、森本のリスクマネジメントスキルを磨いていった。

副社長としてアジア大洋州を統括した後、三井製糖へ。商社で培ってきたものをどう生かすのか。本人は畑違いの業界に違和感はない。「千葉工場に行くと、合成樹脂工場と一緒でした。製糖に使う結晶缶と、プラスティックをつくる重合缶は外見がそっくりで、白い粉体が出てくるところも同じ。これまでの知識を使えば理解可能でした」

国内の砂糖市場は前述のように縮小傾向だが、「石油化学の上流である石油精製業界で再編が進むのを間近で見ていた」と、統合効果の最大化にも自信を見せる。

ただ、統合による合理化だけでは売り上げは伸びない。気になるのは成長戦略だ。同社は現在、アジアを中心とした海外事業と、砂糖以外のライフ・エナジー事業に力を入れている。後者では、シニアケア用栄養食品業界3位ニュートリーを買収するなど、新市場の開拓に熱心だ。

ライフ・エナジー事業を加速させるため、コーポレートにあったR&D機能を事業部に移した。さらに新規事業開発室を新設して公募したところ、若い社員が殺到したという。

ただ、森本は「業態が広い商社では多くの事業提案が出てくるが、モノカルチャーであった当社では“やってみなはれ” “やらせてみなはれ”で背中を押している」と、まだ満足していない。「リスクは私のほうでマネージする。だから思い切って挑戦してほしい」数々の危機を乗り越えてきた森本だけに、最後の一言には説得力があった。


もりもと・たく◎1957年京都生ま れ。81年に早稲田大学商学部を卒業後、三井物産入社。米国、サウジアラビア駐在などを経て2019年 三井物産副社長執行役員アジア・大洋州本部長。20年三井製糖へ。代表取締役副社長を経て21年より現職。

文=村上 敬 写真=苅部太郎

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年9月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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