富裕層の寄付者や卒業生の子弟を優先して入学させる、ハーバード大学のレガシー・アドミッションは違法だと主張したのだ。この申立書を受理したアメリカ教育省が今年7月末から調査に乗り出し、事態は混迷している。
優遇対象外のマジョリティへの逆差別?
もともとアファーマティブ・アクションは雇用の不平等を是正するために講じられたもので、『ニューヨーク・タイムズ』によると、第35代大統領ジョン・F・ケネディが署名した1961年の大統領令10925号に端を発している。この大統領令で雇用機会均等大統領委員会が新設され、アメリカ政府の請負業者は「人種や信条、肌の色または出身地にかかわらず、求職者を確実に雇用し、彼らが雇用されている間は適切に処遇するよう、積極的な措置を求める」ことが求められた。そしてケネディの後任者である第36代大統領リンドン・ジョンソンの政権下で1964年に公民権法が成立。1965年の大統領令11246号で、差別禁止条項がより広範に規定された。さらに時が経つにつれ、アファーマティブ・アクションは教育界にも浸透。アメリカの多くの大学で人種に配慮した入学選考が行われるようになった。
しかし優遇対象外の人種(多数派を占める白人ないしアジア系の入学志望者)にとって、この措置は逆差別に当たるとして何度か訴訟が起こされたが、アメリカ連邦最高裁判所は1978年の裁判ではアファーマティブ・アクションを容認していた。ところがそれから45年後、冒頭で述べたように、この判例が覆されたのである。AP通信が指摘するように、これは女性の人工妊娠中絶権を認めた1970年代の判例を破棄した時と相通ずるものがある。
「スタンフォード大入学者の約13.5%」が寄付者/卒業生の子弟
このような経緯を経て、今度はレガシー・アドミッションがアメリカ教育省の調査対象になった。南カリフォルニア大学教授で人種・公正センターの創設者であるショーン・ハーパー氏は、アメリカ教育省が受理した申立書を引用しつつ、「2014~2019年にかけて、富裕層の寄付者の子弟はほかの入学志望者よりも7倍近く、卒業生の子弟はほかの入学志望者より6倍近く、ハーバード大学に合格する可能性がそれぞれ高い。2022年のハーバード大学の合格率は3.2%だったが」と『Forbes』US版に寄稿した。
なおかつイギリスの『ガーディアン』は、そうした富裕層の寄付者や卒業生の子弟の「約70%が白人である」と付け加えている。
ハーバード大学に限らず、多くのアメリカの一流私立大学が長年にわたりレガシー・アドミッションを続けている。『ワシントン・ポスト』の調査によると、「全米で100校あまりの大学が入学選考時に卒業生の子弟かどうかを考慮」している。さらに同紙は、「スタンフォード大学に2022年秋に入学した新入生280人以上(全体の約13.5%)は富裕層の寄付者や卒業生の子弟であり、2021年のプリンストン大学の新入生のうち約10%は卒業生の子弟だ」とも指摘している。