欧州

2023.08.15 10:30

英首相、北海での資源掘削に舵を切るも前途は多難

英北海沖の天然ガス生産プラットフォームの設置(Getty Images)

英国はようやく実行可能なエネルギー政策に向かって動き出した。同国のリシ・スナク首相は、石油や天然ガスが豊富な北海での掘削を拡大することを望んでいると表明したのだ。この構想は英国のエネルギー自給率を高めるものと期待される。同国では昨年のロシアによるウクライナ侵攻開始以降、国内でのエネルギー供給不足が懸念されてきた。

英国で発電に利用される天然ガスは、新型コロナウイルスの流行前と比較すると、依然として割高だ。金融統計サイト「トレーディングエコノミクス」によると、欧州の1メガワット時当たりの天然ガス価格は、2019年末時点の約13ユーロ(約2000円)から最近では29ユーロ(約4600円)にまで値上がりしている。

英国からの供給が増えても欧州のガス価格には大した影響は及ばないかもしれないが、欧州諸国が英国に追随すれば、価格が新型コロナウイルス流行前の水準にまで下がる可能性がある。

エネルギー価格の下落は、欧州全体の経済にとって大いに必要な後押しとなることは間違いない。ドイツをはじめとするユーロ圏は現在、景気後退に陥っている。その原因の1つは、ロシア産の安価な天然資源に大きく依存していたドイツの景気減速にある。

英国ではこれまで、エネルギー政策を巡ってたびたび混乱が起きていた。例えば、英政府は水圧破砕法として知られる採掘技術が物議を醸すことを恐れ、国内での陸上での天然ガス生産を禁止した。他方で、スナク首相は米国から天然ガスを輸入する契約を結んだが、そのガスの多くは同様に批判の的となっている破砕技術を用いて生産されているのだ。同首相はイングランド北西部にある新たな炭鉱の開発も許可した。

こうした一連の混乱を経て、スナク首相はようやく目を覚ましたようで、今回新たに打ち出したエネルギー政策は英国のこれまでの経済政策は失敗だったという評判を払拭するのに役立つかもしれない。

だが、このエネルギー政策を進めるに当たっては、問題が待ち構えている。特に、英政権がエネルギー企業に対し、異常な高収益による超過納税ともいわれる想定外の税金を課したことだ。ここで問われるのは、石油企業が今後予想される利益にかかる税金がどうなるかわからない状況で、北海で掘削する利権を得るために政府にいくら支払う用意があるのかということだ。

経済学者はこうした懸念を「政策の不確実性」と呼ぶ。他の不確実性と同様、それは事業を進める上でのリスクを増大させ、投資家(この場合は石油大手企業)が大きな利益を見込む必要があるのか、あるいは支払いの値下げを申し出ることを意味する。

この状況に特に関連するもう1つのリスクがある。世論調査では、現在スナク首相が率いる与党保守党が、次の総選挙で大敗を喫する可能性が強く示唆されていることだ。つまり、政権は右派から左派へと移り、政策も転換する可能性が高いのだ。

そこに問題がある。新政権が掘削を抑制するような決定を下すかもしれないリスクを負いながら、北海の掘削に今、巨額の投資をするような企業が果たしてあるだろうか? そんな企業はほとんどないだろう。たとえ投資しようとする企業があったとしても、将来の見通しがはっきりするまでは比較的少額で済ませることだろう。

forbes.com 原文

翻訳・編集=安藤清香

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