2023.08.02 08:15

水素活用の潮流に出した回答。BMWが日本で実証実験を始める理由

坂元 耕二
商用車は乗用車に比べると、決まった地域内での運用、あるいは決まった地点間での運用が多く、必要な数の水素ステーションが少なくて済むという利点がある。またトラックをEV化しようとすると、重いバッテリーを大量に積む必要があるため、その分、積載可能な荷物が減ってしまうという課題がある。これに対して水素はバッテリーより軽いため、FCトラックのほうがEVトラックより積載量を多くできる。

前置きが長くなったが、こうした状況の中でSUV(多目的スポーツ車)のFCVであるiX5 Hydrogenの公道実証を国内で実施する意味がどこにあるとBMWは考えているのか。筆者の興味はそこにあった。

「X5」がベース。強調したエネルギーの効率的な運用。

今回BMWが公道実証を実施するiX5 Hydrogenは、エンジン車のSUV「X5」をベースにしている。エンジンルーム内にFCスタックを搭載し、本来ならプロペラシャフトが通るセンタートンネル内や、燃料タンクを置く後席下に高圧水素タンクを取り付け、後輪をモーターで駆動する。モーターの最高出力は295kWと、国内で販売されている排気量3.0L・V型6気筒ディーゼルターボエンジンを搭載するX5の出力(250kW)を上回る。水素タンクの容量は6kgで、WLTPサイクルでの航続距離は504kmと、トヨタのMIRAI(約750km)よりは短い。また、FCセルはトヨタ自動車製でMIRAIのものと共通だが、セルを積み重ねたスタックの製造や、これをハウジングに収め、駆動システムに組み上げる工程はすべてBMWが実施している。

今回の発表のために来日したBMWグループ水素燃料電池テクノロジー・プロジェクト本部長のユルゲン・グルドナー氏はプレゼンテーションの中で、再生可能エネルギーを利用する形態として、太陽発電や風力発電による電力をそのまま利用するだけでなく、貯蔵や輸送のためのキャリアとして水素を活用する重要性を強調した。そのうえで、充電設備を利用しにくい環境にあるユーザー、寒冷地での利用などで航続距離を重視するユーザー、牽引を定期的に利用するユーザーにはFCVが適していると説明した。

また、EVの充電時間よりもFCVの水素充てんにかかる時間が短いことや、EVの高速充電器のコストが高いことから、EVだけを普及させるよりも、EVとFCVを「共存」させたほうが、インフラ整備にかかるコストは低く済むことも指摘。「2は1より経済的」と強調していた。(ドイツ政府はすでに2020年に国家水素戦略を打ち出しており、EU域内外の既存の天然ガスパイプライン網を水素流通に生かす方針だ。日本でも資源エネルギー庁は30年頃に天然ガスレベルの30円/Nm3程度の製造コストを目指している)

コスト高が続く電気充電のインフラだけでなく水素インフラを同時に持つことが理にかなうと解説するグルドナー。

コスト高が続く電気充電のインフラだけでなく水素インフラを同時に持つことが理にかなうと解説するグルドナー


日本は国内だけでは必要なエネルギーを再生可能エネルギーで賄うことが難しく、何らかの形で海外から再生可能エネルギーを輸入する必要がある。液体水素も、その形態の候補の一つだ。この場合、水素を発電に使うのではなく、そのまま使うほうが効率的なのも事実である。BMWはまだFCVの商品化時期を明確にしておらず、本当に商品化するかどうかもまだ未知数だ。しかし、多様なエネルギーの選択肢を残そうとする姿勢は日本のトヨタ自動車にも通じるものがある。BMWの挑戦を今後とも注視していきたいと思わせられた今回の発表だった。

取材・文=鶴原吉郎 写真=西川節子

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