2023.08.02

水素活用の潮流に出した回答。BMWが日本で実証実験を始める理由

BMWはイベントで水素燃料電池車の可能性を強くアピールした。

BMWジャパンは、FCV(燃料電池車)の実験車両「iX5 Hydrogen」の日本における公道実証を開始すると7月25日に発表した。日本のトヨタ自動車やホンダなどが、FCVの大型トラックや路線バスなど商用車への応用へシフトする中、乗用車専業メーカーであるBMWがFCVの開発を続ける狙いは何なのか、来日したドイツ本国の燃料電池テクノロジー・プロジェクトの責任者に聞いた。

BMWグループ 水素燃料電池テクノロジー・プロジェクト本部長 ユルゲン・グルドナー

BMWグループ 水素燃料電池テクノロジー・プロジェクト本部長 ユルゲン・グルドナー

水素ステーションの少なさがネック

FCVを自家用車として普及させる試みは挫折の連続と言って良い。世界初の量産FCVであるトヨタ自動車の初代「MIRAI」は、2014年末の発売から6年後の2020年11月に販売を終了するまで、世界での累計販売台数は約1万1000台にとどまった。大幅に改良した2代目でさえ2022年の世界販売台数は年間で4000台にとどまる。世界で最も販売台数の多いFCV乗用車は韓国現代自動車の「NEXO」だが、それでも2022年の世界販売台数は1万台程度だ。

普及が足踏みするFCVと対照的に普及が急加速しているのが、EV(電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド車)である。両者の合計で、2022年には世界の自動車販売の約10%に達した。この差はどこにあるのか。FCVはEVと同様に走行中にCO2を排出しない。また、充電に最低でも30分程度かかるEVに比べて、FCVには燃料補給に数分しかかからないという利点もある。しかし、普及のネックになっているのが水素ステーションの少なさだ。国内ではわずか163カ所(2023年1月末時点)* にとどまる。


*)令和5年6月再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議の「水素基本戦略(案)」によれば、日本は、商用車・乗用車、港湾、そして地域の燃料供給拠点などに応えうる「マルチステーション」を見据えている。また、2030年までに、乗用車換算で80万台程度の普及、水素ステーションは1000基程度の整備を目標としている。


一方で、EVは家庭で充電できるという大きなメリットがある。地方ではガソリンスタンドの数が減り、「SS(サービスステーション)過疎」という言葉が生まれるほどだ。ガソリンの補給のためだけに往復40分ほどもクルマを走らせなければならないところも出てきている。このガソリンスタンドの減少が、日産自動車の軽自動車EV「サクラ」の好調を支える一つの要因になっている。また、自宅で充電できれば、走行にかかる電気代は、同クラスのエンジン車におけるガソリン代の1/3程度、HEV(ハイブリッド車)に比べても1/2程度で済み、維持費が安いというメリットがある。これに対してFCVの水素燃料代はエンジン車のガソリン代とほぼ同等の水準だ。厳しい言い方をすれば、FCVはユーザーから見ると、高価で、燃料補給が不便で、燃料代のメリットもない「買う理由のないクルマ」でしかない。

国内メーカーは商用車にシフト

こうした現状を認識し、トヨタ自動車やホンダが最近力を入れているのが乗用車以外への応用である。トヨタ自動車と日野自動車は現在、アサヒグループホールディングス、西濃運輸、NEXT Logistics Japan、ヤマト運輸と共同でFC大型トラックの走行実証を2023年5月から実施している。またホンダは、いすゞ自動車が2027年に導入予定のFC大型トラック向けに、FCシステムを開発・供給することで合意した。現在、そのためにFCのコスト低減に取り組んでいる。
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取材・文=鶴原吉郎 写真=西川節子

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