同イベントでは、「【NEW Work】都市開発におけるメタバース活用」と題して、官民学の識者が議論したトークセッションが実施された。
・豊田啓介 東京大学生産技術研究所特任教授、建築家
・澤田伸 渋谷区副区長CIO/一般社団法人シブヤ・スマートシティ推進機構理事
・政井竜太 竹中工務店情報エンジニアリング本部本部長
・湯淺知英 大林組土木本部先端技術推進室技術開発部 DX本部生産デジタル部副課長
が登壇。都市開発の変化や新たな視点を取り入れつつ、産業のメタバース活用や可能性について語り合った。
豊田:渋谷区は今後数十年にわたって、世界でも類を見ないほどの都市開発が行われ、大きな変貌を遂げようとしています。まず澤田さんから、今後のビジョンについて聞かせてください。
澤田:開発によって生まれるものは2つ。1つは大きな成長で、もう1つが都市に生じ得る、悪いインパクトです。悪いインパクトには、多くの高層ビルの建築による環境負荷やゴミ問題、ビル風などがあります。
それらは事業者だけの問題ではなく、解決に向けて、今後は行政が大きな役割を担うはずです。例えば、各事業者の保有するデータは非常に有益で、データを活用したメタバースやデジタルツイン(現実空間の情報を、仮想空間上に再現する技術)は環境負荷の予測などに生かせる技術だと考えられています。すでに事業者のデータを行政のデータベースと連携させる準備を進めているところです。
豊田:渋谷区の進めている動きに対して、ゼネコンはどのような貢献が考えられますか。
湯淺:これまで建設領域で培ってきた人材管理をはじめとする技術やデータは、すでに都市開発で生かせる段階に入ってきていますね。そもそも都市開発に転用できる技術を目指して開発してきただけに、建設におけるIoTやセンサーはかなり活用できると自負しています。
政井:たしかに、ゼネコンはすでに都市開発に活かせるデータは保有していると言えます。一方、都市づくりに向けた具体的なデータの活用法が現在の悩みどころですね。
ゼネコンらのビジネス的メリットが必要
実際、シンガポールはバーチャルシンガポールを作り出し、防災をはじめとしたシミュレーションを行っています。ただ、事業者側にとってデータを提供するメリットが薄いとされています。そのため、私たちとしては、日本発で事業者がデータを提供する意味を見いだせないかと考えています。澤田:私は民間出身なので、データを提供することでメリットがあるのかどうかという事業者側の立場は、よくわかります。一方、今後は自治体だけではなく、ゼネコンや開発事業者、住民も巻き込んだ形で公共政策を担っていく、“ニューパブリック”という考えも不可欠になってくるはずです。
渋谷区としても、官民によるデータ供出や投資などでの協力によって成長を加速させ、生まれた利益を分配するという新たなモデルを生み出したい。それによって社会の枠組みそのものを変えていく役割を担っていきたいと考えています。