地球の回転極(自転軸と地表とが交わる点)は、極運動と呼ばれる現象によって、地球の質量分布に応じて地表上を移動する。同様の物理現象は、ずっと小さなスケールだが、ハンマー投げ競技で見ることができる。金属ワイヤーに繋がれた金属球である「ハンマー」の質量が回転することによって、選手は回転軸を中心にふらついてしまう。
地球誕生以来、太陽と月の引力、地表を覆う氷床の成長あるいは縮小、さらには大陸のゆっくりとした変位が質量を移動させさせることで地球の軸は動いてきた。しかし、人間は、はるかに短いタイムスケールで重大な変化を起こすことができる。
2016年の研究で、著者らは過去115年間における回転極の異常な東方への変位は、人為的気候変化によって起きたものであると主張した。大気中の温室効果ガスの増加によって地球が温暖化し、氷床や氷河の融解が海面を上昇させたことで膨大な量の水が再分配されて地球の回転中心が移動したというものだ。
しかし、氷と雪の融解だけでは、観測されたような極の移動を説明できない。
最新の研究で、研究チームは地軸の変位と水の移動をモデル化した。モデルでは、まず氷床と氷河だけを考慮し、次に地下水再分配の複数のシナリオを組み入れた。
「私たちの研究は、様々な気候関連の原因がある中で、地下水の再分配が回転極の変位に最も大きな影響を与えていることを明らかにしました」と主著者のキー・ウィオン・シオはいう。
近代になって、地下水は灌漑や飲料水、産業活動などによって大量に使用されてきた。科学者らは以前、人類は1993年から2010年の間に、2150ギガトンの地下水を汲み上げてきたと推計した。これは6mm以上の海面上昇に相当する。
地下から汲み上げられて流出した水は、特に北半球では海洋の質量を増大させ、陸地を軽くする。
地下水の位置は、モデルの中で極の変位をどれだけ変えられるかを決める。中緯度地域における水の再分配は、回転極により大きな影響を与えた。研究対象期間中、最も多くの水が再分配されたのが北米とインド北西部のいずれも中緯度地域だった。
通常、回転極は約1年の間に数メートル変化するため、地下水汲み上げによる変化が壊滅的結果をもたらす危険はない。しかしこの新モデルは、人類のこれまでの地下水利用を研究するツールを提供するものだ。
「地球の回転極の変化を観測することは、大陸スケールの貯水量変化を理解するのに役立ちます」とシオはいう。「極運動のデータは、古くは19世紀終わり頃から入手できます。つまり私たちには、これらのデータを使って過去100年間における大陸の貯水量変化を理解できる可能性があります。果たして気候温暖化に起因する水文学的状況の変化はあったのか? 極運動が答えを知っているかもしれません」
論文「Drift of Earth's Pole Confirms Groundwater Depletion as a Significant Contributor to Global Sea Level Rise 1993–2010」はGeophysical Research Letters(2023)に掲載された。
(forbes.com 原文)