人類を10年早く、前へ!「クライメートテックの雄」の挑戦

エレファンテック代表取締役社長兼CTO 清水信哉

世界で盛り上がりをみせる気候変動問題の解決を目指す「クライメートテック」。日本を代表する同分野の起業家が見据える先にあるものとは。


「気候変動を対象にするクライメートテック領域でも、IT革命と同様のことが起きますよ」

エレファンテック代表取締役社長 清水信哉にはその確信がある。同社は、数の少ない日本発のクライメートテック・スタートアップ。インクジェット印刷による電子回路製造技術の実用化に取り組む。既存製法と比べてCO2排出を75%、水消費を95%削減できる「サステナブルな電子回路」のさらなる研究開発に向け、2022年10月に、21.5億円の資金調達を行った。

起業前のマッキンゼー・アンド・カンパニー時代、ボストンにいた清水には、日本の世界でのプレゼンス低下に強い危機感があった。

「今後、日本が外貨を稼ぎ、世界にインパクトを残せる領域は何か。この技術がないと世界がまわらない、そんな日本の国家百年の計となるような技術で、起業しようと考えていた」

14年の創業時、技術は日本が強いか、長期で世界からニーズが高まるかで選択。プリント基板はナノ材料の材料技術、印刷の精密加工技術という日本のお家芸のかけ合わせだ。

「見つけたかったのは、5年後にニーズがなくとも、20年後に絶対必要になる技術だった」

世界で勝てると見込んだ技術は、低環境負荷の技術(クライメートテック)であり、実用化されていない基礎研究レベル(ディープテック)であった。産業化は難しいが、これらのテックの対象市場は、自ずとグローバルで巨大となる。事実、海外進出はしていないにもかかわらず、同社の来年以降の売り上げの大半が海外になるという。

追い風はEUの国境炭素税導入の動きであった。EUとビジネスをするグローバル企業は、脱炭素技術を無視できなくなった。

創業から7年のかかった量産化。大企業とのオープンイノベーションを戦略的に活用した。

「大企業は、10年、20年単位で新しい事業の柱になるものをつくりたい。利害が一致した」

エレファンテックは三井化学名古屋工場内の敷地を借り、セイコーエプソンのヘッドを活用した基板量産工場を設置。設備のみならず、製造、工場管理ノウハウまで提供を受けた。

「大企業の当たり前は、スタートアップに価値がある。車輪の再発明はいらない。スケールアップのノウハウは、大企業のなかにたくさんある」

30年には、デファクトスタンダードとして、世界中で使われる技術となり、3億ドルを超える売り上げへ。この技術で世界を取れば、ほかの領域でも同様に、脱炭素に必要不可欠な技術で世界標準を次々と独占する企業を目指せる。

「イーロン・マスクによって、宇宙領域が10年ぐらい前進したように、わが社によって、人類が10年、20年くらい早く進んだといわれる挑戦をしたい。日本の技術でなら、できるはず」


清水信哉◎エレファンテック代表取締役社長兼CTO。東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻、修士課程修了。2012年4月、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。14年1月、エレファンテック共同創業、代表取締役社長。22年7月よりCTO兼任。

『Forbes JAPAN』2023年6月号の特集「NEXT100 100通りの『世界を救う希望』」では、「新しく、多彩な、アントレプレナー・リーダーたち」にフォーカスしている。さまざまな領域で生まれている、これからの新・起業家、新リーダーたち100人を一挙掲載している。地球規模の課題や地域課題に対して、「自分たちのあり方」で挑む、彼ら、彼女らを「NEXT100」と定義。その新しい起業家精神とスタイル、アプローチで社会的・経済的インパクトを起こす人々の希望と可能性を紹介する。本記事は、同特集内で掲載している記事だ。

文=フォーブス ジャパン編集部 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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