ソロスは、1985年のプラザ合意時の米ドル売り、92年の英スターリング・ポンド売り、アジア通貨危機における為替投機で破格のリターンを得ている。いずれも各国の経済の実態と、為替市場に対して人々の認識の齟齬(そご)が生じていると考えての投機である。
バフェットとソロス。両者の違いは、「金融市場の有無にある」と、阿部は説明する。つまり、バフェットの投資は金融市場があることを前提としていない。
会社が成長すれば出資者にもリターンがあるわけで、彼自身、「株式市場がなくても、自分の投資は成功しただろう」と語っている。その点、ソロスは金融市場ありきで投資家として成功を収めた。企業が富を蓄える過程に株式を通じて市場に参加するのがバフェットの投資手法だとすれば、金融市場のメカニズムに基づいて投資をするのがソロスなのだ。
著しく異なる両者に共通しているのは、経験を通じて確立した投資の基本を外さないのはもちろん、研究を怠らない点である。
バフェットは、『賢明なる投資家』を初めて読んだとき、震えが止まらなかったという。読後、著者である米コロンビア大学のベンジャミン・グレアム教授のもとへ飛び、師事するようになったのは有名な話だ。一方のソロスは、“移動標的”を追い続けている。
投資モデルの中に組み込む変数が多いぶん、見るべき点も多くなる。阿部は、ソロスにとある企業の含み益について報告するべくロンドンへ赴いたところ、「調査が不十分」として日本にとんぼ返りさせられたことがある、と明かす。
投資には高度な知性や専門性、内部情報はいらないが、基本的なものごとを見る知的フレームワークを身につけるべき。バフェットの恩師である、グレアムはそう語っている。阿部は、それを「運転免許を取得する過程に近い」と表現する。
「運転免許を取るとき、操作や交通ルールを自動車教習所で学びますよね? 投資も同じで、“事故”を起こさないためにも、学ぶ姿勢をもつべきでしょう。その学ぶべきことは何か。それは自分の頭で考えて、模索し続けなくてはいけません」(阿部)
阿部修平◎スパークス・グループ代表取締役社長、グループCEO。スパークス・アセット・マネジメント代表取締役社長、CEO。米ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナルを経て独立。89年にスパークス投資顧問(現スパークス・グループ)を設立。『トヨタ「家元組織」革命 世界が学ぶ永続企業の「思想・技・ 所作」』(リンクタイズ刊)など著書多数。