第一の問題は、棄権に回っている多くの新興国、発展途上国が相当数にのぼることだ。実は、今回のロシアによるウクライナ侵攻で明らかになったのは、「西側民主主義陣営」対「ロシア等独裁体制陣営」という2グループだけではなく、第3の「中立陣営」(「グローバルサウス」とよばれる)の存在だ。その多くは、西側諸国の民主主義を含む価値感には賛同するものの、中ロとの貿易関係は続けたい、と考えている。インドがその典型だ。立派な民主主義国だが、兵器の購入や貿易では歴史的にロシアとの結びつきが強い。ロシア主導の極東軍事演習「ボストーク2022」に中国や中央アジア諸国とともに参加する一方で、日米豪印戦略対話(QUAD)にも参加している。6回の国連決議にはいずれも棄権している。西側諸国としては、いかにインドをはじめとする「中立国」を味方につけるかが、課題である。
第二の問題は、常任理事国5カ国(と緊密同盟国)が他国侵略を行った場合には、常任理事会は有効な制裁を行うことができない、ということだ。6回にわたる総会決議は、政治的なメッセージ性はあるものの、実効性はない。ロシアによるウクライナ侵攻が終わっていないことが、なによりも総会決議の無力を表している。東アジアで同様の事態が起きても国連は頼りにならない。日本としても遠い国の問題と考えないことが重要だ。このような無力感が広がっているときこそ、かねて日本が主張している国連改革を再度提起する好機である。日本とドイツの常任理事国入りを提案することが考えられる。より革新的な提案は、常任理事国が侵略の当事者となった場合に常任理事国の拒否権を停止するというものだ。重要なのは、日本がここで建設的な声を上げておくことだと思う。
伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学客員教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002〜14年東京大学教授。近著に、『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。