今年3月期以降、有価証券報告書を発行する大手企業に、人的資本の情報開示が義務付けられた。しかし、人的資本が自社の企業価値にどのくらい寄与しているかを把握し、人材施策の投資判断を行ったり、投資家への戦略的な情報開示を実現できる企業は、どれだけ存在するのだろうか。
一橋大学大学院 小野浩教授と、Institution for a Global Society 代表取締役社長 兼 同大学院 福原正大 特任教授が共同座長を務める「人的資本理論の実証化研究会」は、上場企業32社(約1万5500名、14業界)の人的資本(企業人材の能力)を過去5年分(2018年1月~2022年12月)分析。
管理職のイノベーション力(※1)、SDGs力(※2)の高低によって、各社の株式利回り(年率)やリスクに対するリターンの度合い(シャープレシオ)にどのような違いが生じているのかを検証した。
※1 イノベーション力:イノベーションを起こすために必要な5つの能力(外交性、共感・傾聴力、創造性、個人的実行力、課題設定力)。ハーバード・ビジネス・スクール クリステンセン教授ら著書「イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル」をもとに設定。※2 SDGs力:SDGsへの感度。自分が住む地域や国に限らず、世界の一員として何ができるか考えられる能力。まず、管理職のイノベーション力が高い企業群は、株式利回りがTOPIXより2.5ポイント、イノベーションが低い企業群より3.2ポイント高かった。さらに、リスク度(価格変動の大きさ)を同じにして比較した際のリターン(シャープレシオ)は、TOPIXと比べて+0.15、イノベーションが低い企業群と比べて+0.2という結果に。イノベーション力が高い企業群の株式は、TOPIXやイノベーションが低い企業群よりも、ローリスクハイリターンだった。
さらに、管理職のSDGs力が高い企業は、株式保有のリスク(価格変動の大きさ)が、TOPIXと比べ2ポイント、SDGs力が低い企業群と比べ4.7ポイント低いことが分かった。シャープレシオは、TOPIXと比較してわずかに低かった。
同研究会では今回の研究結果を踏まえて、投資家は各社管理職の能力 (イノベーション力・SDGs力)に関する情報を取得し、株式ポートフォリオを構築することで、より有利な投資をできる可能性があると説明。一方で、企業は人的資本(従業員の能力)を定量的に測定し、戦略的に開示することで、投資を呼び込む効果が期待できると総括した。
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