幼少期に目にした事故が原動力
山入端が、ここまでイヌパシーの普及に心血を注ぐのは、幼少期に猫が事故にあい、亡くなるのを目の当たりにしたからだという。「当時の光景は目に焼き付いています。あの猫がやりたかったことは何か?どうやったら救えたのか?と折りに触れ考え続けていました。同じようなニュースを見るたびに事故が蘇ってきて、社会人になってからも、なぜいまペットを救う活動に関わっていないんだろうと考えていました。イヌパシーの事業でも、当時の想いが原動力になっています」
常に、ペットが住みよい社会づくりを意識し、自分ごと化してきた山入端。イヌパシーの事業だけでなく、犬猫にとって健全な社会のモデルケースの研究も行ってきた。
例えば、トイレの仕方を教えたり、噛み癖を矯正するといった「ドッグトレーニング(犬のしつけ)」は、山入端がもっと普及すべきだと考えることの一つ。日本ではしつけは飼い主に委ねられるが、欧米の中には、飼い主側が犬を飼うための訓練を受けていなければ、飼育が許されない国もあるという。
ただ、その分自立した犬が育ちやすく、ペット立ち入り禁止の区域も少ない。山入端も、現地のレストランやスーパーで、ペットが生活の中に共存する姿をみてきた。
犬や猫も、街中で邪険に扱われているか、尊重されているかは、敏感に感じ取っているだろう。ドッグトレーニングの浸透は、ペットとの共生のうえで、ヒントになりそうだ。
また、山入端は、街づくりの観点からこうも話す。
「アスファルトで舗装した道は、人間にとっては歩きやすくて快適です。だけど、例えばイヌは、尿の匂いで他のイヌたちとのコミュニケーションを取ってたりするんですよね。街路樹や土が少ない都会の道は匂いが少ないため、人間で言えば、友達との連絡や新しい情報が遮断された、味気ない空間で生きているようなものなんです」
社会は人間の声を中心に作られてきたが、ペットにとって住みよいかという視点はあまり論じられてこなかった。
そうしたなかでラングレスは、イヌパシー事業を起点に、人と動物の共生を目指していくという。
「数十年後には、人だけじゃなくペットや動物の意思決定も社会に影響を与える未来が訪れていると思います。ペットが自分らしく生きられる社会づくり、その後押しを私たちがやっていきたい」
多様性は、今や社会の当たり前のキーワードとなったが、現状は人間に当てはめられることが多い言葉だ。今後は動物の意志もいま以上に尊重され、多様性を認める社会が訪れるかもしれない。
イヌパシーは、そんな未来の可能性を感じさせた。
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