起業家

2023.03.30

三井物産を辞めクッキー屋さんに 「ovgo Baker」はこう誕生した

OVGO創業者の溝渕由樹。小伝馬町の店舗で

退職後の約1カ月半、アメリカやブラジル、アルゼンチンを一人旅した。

いつか食を仕事にするときのアイデア探しや、日本にはない食べ物を探究したいという思いからだった。その道中のアメリカで、プラントベースと環境問題や食糧問題、ひいては人権問題との密接な関わりを知る。

「ヴィーガンやオーガニックは、動物愛護や健康のために選ぶものだと思っていましたが、『環境負荷が高いから肉食を控えている』という考えの人も多くいました。牛一頭が育つために必要な試料を人間用の穀物にすれば、30億人もの人が飢餓から救われることになる、という話も聞いて、驚いたのを覚えています」

この旅を経て、溝渕は「プラントベースの食べ物に関するビジネスであれば、自分が好きなお菓子づくりともつながっているうえに、環境問題や食糧問題にも貢献できるかもしれない」と考えるようになった。あらゆる場所でヴィーガンやグルテンフリーのオプションが選べるアメリカのように、日本でもプラントベースという選択肢を広げたい、と。

日本にもビジネスチャンスがある

帰国後、改めて国内のプラントベースやヴィーガン、オーガニック食品に目を向けてみた。

当時は、翌年の2020年に開催予定だった東京五輪のインバウンドを見据えて、大手メーカーが少しずつヴィーガン食品に参入していた程度で、浸透しているとは言えない状況だった。それまで起業はまったく考えていなかったが、日本にもビジネスチャンスがあると知り一歩踏み出すことを決意した。

小学校の同級生である松井映梨加と西川友理に声を掛け、2019年夏頃からプラントベースのクッキーづくりを始めた。溝渕を含めて最初はみな兼業だった。休日や仕事終わりにマンションの一室の狭いキッチンでクッキーを焼き、各地のマルシェや表参道の「青山ファーマーズマーケット」で販売したり、知り合いのカフェに卸したりしていた。



2020年以降のコロナ禍で、マルシェやカフェが閉店し打撃を受けたが、しばらくすると、ネットショップ「BASE」で注文が入るようになった。

そして、2020年5月に合同会社を設立。本格的に起業するにあたり資金調達面で髙木里沙も合流し、創業メンバーの4人が揃う。溝渕は、緊急事態宣言明けの販路拡大を目指して、同年7月にDEAN & DELUCAを退職し独立した。社名の「OVGO」は、「organic, vegan, gluten-free as options」の頭文字から名付け、同社のポリシーを表している。



ただ、コロナ禍での門出は順風満帆ではなかった。緊急事態宣言が明けると一転、ネットショップがまったく売れなくなり、ファーマーズマーケットの再開も9月まで先延ばしになったため、まったく売り上げがない時期もあった。

それでも、InstagramなどのSNSでの口コミが広がり、2020年12月にはラフォーレ原宿でポップアップショップを開催する運びとなった。この原宿への出店が、OVGOの大きな転機となる。

>>第2回 日本の飲食店初の「B Corp」 世界基準のクッキーブランドとは



【連載】OVGOの軌跡

第1回 三井物産を辞めクッキー屋さんに 「ovgo Baker」はこう誕生した(本記事)
第2回 日本の飲食店初の「B Corp」 世界基準のクッキーブランドとは
第3回 クッキーブランド「ovgo Baker」原宿店 Z世代が集まる仕掛けとは
第4回 日本発アメリカンクッキーブランドがNYに進出。その勝算は?
第5回 日本発「アメリカンクッキー」ブランドの資金調達 投資家は何を評価した?

文=堤美佳子 取材・編集=田中友梨 撮影=山田大輔

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事