「慈悲」のあるビジネスを
上記の教えを実践し、心が整うことで、利他やワンネスの精神が養われ、最終的に体得できるのが「慈悲」=コンパッションである。コンパッションは、無償の愛とも言われ、他者に対する思いやりや共感を示す。例えば昨今、ただ良い商品やサービスを顧客に提供するだけではなく、地球環境に配慮したり、慈善団体に寄付したり、マイノリティを支援するなど、社会全体への思いやりを考慮しなければならないことは、コンパッションの必要性を指し示している。
従業員との円滑なリレーションシップにおいても、その必要性が高まっている。従業員が自分自身や他の従業員に対してコンパッションを持ち、相互理解や協力関係を築くことでチームワークが向上し、業績の向上や業務の効率化などにつながる。また、顧客のニーズや要望を理解するだけでなく、共感的な対応により、企業のポジティブなイメージを増幅させることもできる。
さらに経営者やマネージャーがコンパッションを持つことで、従業員に寄り添い、課題や問題を理解し、モチベーションを高め、仕事に対するやりがいや意欲を増進させる。共感的な対応があることで、従業員はより自由にアイデアを出し合い、新しい商品やサービスの開発にも繋がるという好循環を生む。
これら4つの教えを改めて考察してみると、「当たり前じゃないか」と思われるかもしれない。また、仏教ならずとも一般的な倫理観に基づく内容とも受け止められる。しかし、戦争を筆頭に、社会の分断やマイノリティの排除などが渦巻いてしまっている状況を鑑みると、この当たり前の行動規範を日常で実践し、その輪を広げることがいかに難しいかを痛感させられる。
そういった意味でも、多くの人が人生の大半の時間を捧げるビジネスで、仏教の教えを活かしていく影響は大きい。「縁起」「四聖諦」「八正道」「慈悲」により人間性を高め、それによりコンパッション溢れる社会となれば、人々の心の平安や世界の平和の実現にも繋がっていくであろう。