SNSのダークな部分を露呈
文学少女だったミーチェンは、「死んでいた」期間には執筆に逃避して、精気を養うはずだったところが、カミグアウトしてファンページで非難にさらされるようになると、執筆そのものがミーチェンを硬直させ、傷つけ、攻撃的にさせ、ファンとの対立はますます深刻化していったという。「毎日、業界や、友達だと誓う人々に対処するよりも、死んだほうがましだと思うようになりました」とミーチェンが最後に書き、自分の病状も明らかにしていた。
こうなるとどこまでが本当でどこからが嘘なのかがわからなくなる。
自殺の書き込みは家族によるものだが、それも嘘ではないのか? あるいは、ミーチェンは自殺の書き込みをつい最近まで知らなかったというが、それも嘘ではないのか? 2年間の死亡期間中にもファンはSNSでのやりとりを続けていた。
しかし、ミーチェンの編集者は、彼女のサイトにファンとして出入りしている書き込みに、独特のスペルミスがあったとして、あれはミーチェン自身がファンを偽装して出入りしていたと指摘する。
すべてが「虚構」という見方も生まれ、ミーチェンに同情する人より、裏切られたと息巻く人のほうが多い。そして、「病気そのものも嘘でないかという書き込み」さえ現れるようになった。
すると、今度はなんとミーチェンのかかりつけの精神科医が名前を明らかにして取材に応じ、彼女が統合失調症の治療を受けており、不安症、うつ病、精神病の薬を実際に処方していることを証言した。医師がメディアの取材に応じて患者の病状を話すとは異常事態だ。
こうなると、今度は「病気そのものが嘘ではないか」と書き込んでいた人たちが、また顔を上げられなくなった。
今回の一件はSNSのダークな部分をあらためて露呈した。しかしそれだけでなく、SNSに依存しないと経営を維持できない出版業界が、SNSゆえにクリエイティブな才能を奪い、業界の価値を貶めていくという自己矛盾が浮き彫りになったともいえる。
クリエイティブなものをつくる人によって、他人の評価はなによりも気になるところだが、それが膨大な匿名投稿により、一旦、悪に転じると、その毒はおそろしい爆弾となって作家を壊していく。
そして、「SNSを使えばあなたもスティーヴン・キングになれるかもしれない」とばかりに自費出版に誘い込む悪徳業者も絶えず、彼らもSNSで商売を維持している。
こうして、SNSでの罵倒の風向きは、右から左へ、左から右へと目まぐるしく変わり、罵倒の対象になった人たちはアカウントを削除して消えていった。結局、本当のところは誰もわからず、新聞の1面で取り上げたニューヨーク・タイムズも、これ以降、記事の発信はない。そして、復活したはずのミーチェンも、書くのをやめてしまっている。
作家が傷つき、夫が悩み、ファンは裏切られ、こうして業界はまた縮んでいく。解決策はますます難しくなってきている。