「今現在スピードリミッターが装着義務になってる意味はどこへ行ってしまうのでしょうか。高速道路でもインターチェンジ、ジャンクション、パーキングへの流出及び本線流入のときは特に急ブレーキになるリスクを伴います。
パーキング等の出口直前で追い越し車線からトラックの前を横切って出て行く乗用車、十分な加速をせずに流入してきて本線に乗ってから加速していく乗用車がいるからです。今より20kmもスピードアップして走行した場合、大型トラックの安全速度といえるのでしょうか。疑問しか思い浮かびません」
法定速度変更への取り組みは、安全性を欠かないことを前提に進めると強調されている。スピードリミッターが義務化された平成15年と令和を比較すれば、車両開発の技術は格段に進歩している事実からしても実現可能なのだろう。
ただ多少のリスクを取ってでも、現実的かつ即効性がある対策を取らなければならない領域にまで物流危機が進んでいる印象も受ける。
「早く・安く・丁寧」な物流は絶対?
それだけではない。その他の取り組みから宅配が「高く」「遅く」なる兆候も見られる。
佐川急便、ヤマト運輸は運賃を値上げすると相次いで発表した。運転手の待遇改善を狙うものだ。特にヤマト運輸は毎年届出運賃を見直すとしており、運送業界全体における賃金の底上げや人材確保への良い影響が期待できる。一方で消費者視点で見れば、物価や通販の送料が高くなる可能性があるだろう。
また通販サイト「LOHACO(ロハコ)」は配達日を7日後まで選べる「おトク指定便」の実証実験を続けている。商品の納品日を先の日付で指定するほどPayPayポイントが加算される仕組みだ。(10円から30円相当)2022年8月下旬から9月半ばまでの利用率は51%にのぼり、ユーザーから好評を得ている。
大手を中心に物流危機への対応が進む中、消費者にとって「早く・安く・丁寧」な物流であるに越したことはないが、今までのレベルを絶対的に求めるかというと、実はそうでもない実態が見え隠れする。物流の安定供給を望むのであれば、今後サービスレベルの低下を受け入れていかなければならないのかもしれない。
数年前、日本より先に8万人のドライバー不足に達したアメリカでは、商品によっては数週間・数カ月届かない事態にまでなり、ドライバーの運賃は上昇、商品の価格も高騰していったという。
法定速度の引き上げ案は経済産業省の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」でいくつも発案されたうちのひとつだ。実施されるかは今後の検討次第だが、状況が逼迫しているため急ぎ検討を進めるという。
私たちの生活に直接影響を及ぼす物流がどう変化していくのか。いち消費者として見守るだけでなく、サービスの利用を通して許容の意思を示したり、メディアや企業への意見、口コミを通じて声をあげたりすることが必要だ。持続可能な物流の妥協点が見えてくるだろう。
田中なお◎物流ライター。物流会社で事務職歴14年を経て、2022年にライターとして独立。現場経験から得た情報を土台に、「物流業界の今」の情報を旺盛に発信。企業オウンドメディアや物流ニュースサイトなどで執筆。