キャリア

2023.02.13

学歴の壁も、旧い慣習も乗り越えて「銀行業界の坂本乙女」がゆく

高知銀行常務取締役の三宮昌子

他行の支店長がくれた勇気

モヤモヤした思いを聞いてほしくても、社内にロールモデルはおらず、吐き出せる場所はない──。そんなとき、メガバンクで女性初の支店長が誕生したという新聞記事を目にした。

「とても勇気をもらいました。その方と面識がないにもかかわらず、思わず電話して、お慶びの気持ちを伝えたほどです」

ある意味では自ら孤独を選んできたのかもしれない。役席になってからは、職場の女性と昼食に行くことを自重するようになった。馴れ合いを避けるためだ。

「日常的に愚痴を聞いていたら、情が湧いてそこに引っ張られてしまう。それでは管理職として公平な仕事はできませんから」

2003年、同行初の女性支店長に就任。その後もローン業務部長など要職を歴任してきたが、15年、取締役就任の打診を受けた際は、体が震えたという。

「思わず『私には学歴がありません』という言葉が口をついて出てしまって。でも、覚悟を決めたのは、期待に応えたかったから。期待を裏切りたくない、そして後進につなげたい一心で、今日まできました」

最終学歴が高校卒の女性が銀行の取締役に抜てきされたのは、全国でも初めての例だ。取締役就任のニュースは地元でも報じられたが、「正直、県内ではそれほど大きな反響でもなかった。一方で、東京では『女性の取締役!?』と驚かれる。そのギャップに戸惑うことも」と率直な思いを明かす。そこには、高知の県民性も関係あるのではないかと分析する。

「所得面で一馬力では厳しいからという点もあると思いますが、高知では女性が働くことに関して、他県に比べて以前から理解が高かったと思います。また、男性だらけの環境でも物おじしない女性を育てる風土もあるのかもしれません。女性も本当によく働くし頑張っているんですが、より上位職への昇進意欲と挑戦が必要と感じています」

高知銀行としても、仕事と家庭の両立を後押しする制度を導入しているが、個人の意識変革も必要だと言う。「パートは正社員、一般職は総合職を目指しなさいと声をかけ続けています。パートだから、女性だからと、自分で壁をつくらんでほしいんですよ」。

入行して46年。いまや、年齢こそ会長が上だが、勤続年数で言えば三宮が行内でいちばんのベテランだ。「部長になりたてのころは、周りが男性だらけで“コンセンサス文化”に戸惑うこともあったけれど、取締役のいまでは『反論があるなら言いや』ってハッキリ言いますから」と笑う。

「私には大卒の学歴はないですが、その分、この銀行で誰よりも長く働き、さまざまな部署を経験してきたという自負があります。男性の真似をするんじゃなくて、自分の強みを生かしたい」

三宮はそう言って力強く前を見据える。

「生活に根差した商品やサービスを提供する銀行には、女性の視点を生かせるポジションがたくさんあることを知ってもらいたいし、忘れたらいかん。残りの銀行員人生で、女性の意見を積極的に吸い上げる仕組みづくりに注力していきたいですね」

さんのみや・まさこ◎1957年、高知県生まれ。76年、高知商業高校卒業後、高知相互銀行(現・高知銀行)入行。事務センターに配属後、支店で渉外経験を積み、2003年、同行初の女性支店長に就任。ローン業務部長、コンプライアンス統括部長などを歴任し、15年取締役に。17年より現職。

文=音部美穂 写真=若原瑞昌

この記事は 「Forbes JAPAN 特集◎私を覚醒させる言葉」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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