バイオ

2023.01.27

「若返り」を可能性を秘めたエピゲノムの働きを解明

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人はなぜ老化するのか、老化を防いだり、身体を若返らせることはできないのか。これは人類の永遠の謎だと思っていましたが、現代科学は老化の原因や若返りの可能性にまで迫っています。そこで注目されているキーワードが「エピゲノム」です。これを制御することができれば、もしかしたら若返りも夢ではなくなります。

エピゲノムとは、DNA配列を変えることなく、使う遺伝子と使わない遺伝子を切り替えてその働きを調整するスイッチのようなものです。またエピゲノムは、ストレスなどの外的要因に応じて変化し、状況に応じて遺伝子の使い方を微調整するものであり、それに関する情報を記憶するものでもあります。老化には、そうしたエピゲノムの変化が影響しているのではないかと考えられますが、これまでその仕組みは解明されてきませんでした。

そこで、慶應義塾大学、ハーバード大学などの60名以上の研究者が参加する大規模な共同研究が行われ、エピゲノムに関連する老化のメカニズムについて研究がなされました。そのマウスを使った実験から、以下のことが判明しました。

1. DNA配列の変化や遺伝子異変の蓄積ではなく、遺伝子の使い方を決めるエピゲノムが老化の速度やタイミングを決定する。

2. ストレス(DNA損傷)はエピゲノムとして細胞や臓器の中で記憶されて老化を制御する。

3. 生物学時計(老化の度合いを示す指標)はストレスによって加速し、山中因子(細胞の初期化を誘導する4つの遺伝子)によって巻き戻すことが可能。

4. エピゲノムを介した遺伝子の使い方に異常が生じて、脳や筋肉などの臓器機能が低下する。どの遺伝子を適切に使用するか、という個々の細胞の臓器の特性(アイデンティティー)が喪失されることが老化の原因になる。

早い話が、エピゲノムを制御できれば老化も制御できるかもしれないということです。今後は、エピゲノム解析を通じて老化の早期診断、老化にともなう身体機能の改善方法の開発につながることが期待されると研究グループは話しています。老齢のマウスに人工多能性幹細胞を誘導する山中遺伝子を導入することで、老化を誘導するよう変化したエピゲノムと身体機能が改善したという報告もあるとのこと。手遅れにならないうちに、ぜひとも「巻き戻し」をお願いしたいものです。

プレスリリース:「後天的なストレスがエピゲノムを介して老化を制御する仕組みの解明-老化におけるエピゲノム(アナログ情報)記憶と細胞のアイデンティティの消失-」

文 = 金井哲夫

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