暮らし

2023.01.25

最期まで⾃分らしく⽣きてほしい。42歳医師が「死に際」に向き合う理由

安井佑医師

彼女は「自分はもうすぐ死ぬ」と悟ったとき、こう言いました。

「人生50年の人もいれば80年の人もいるけれど、今回私に与えられた“生”は20年だった。私はこれまでにどれだけ徳を積めたかな」

そして、命を救うことができなかった僕たち医療従事者にも感謝をしてくれました。彼女は「徳を積むことで来世は良い人生が送れたり、親や兄弟が幸せな人生を送れたりするだろうから、現世は良い人生だった」という風に考えていて、価値観の違いにカルチャーショックを受けました。



日本の医療現場では、「この人を絶対に死なせてはいけない」とできる限りの延命治療をしているわけですが、場合によっては戦っている患者さんもご家族も医療者もつらいケースもある。ミャンマーでの経験を経て、つらい思いをして命を終えるのではなく、最期まで自分らしく生きることができたら、という想いが高まりました。

これが、「おうちにかえろう。病院」のコンセプトにつながっています。自分らしくいられる場所と考えたときに、病院より自宅であるだろうと、まず在宅医療を始めたという流れです。

地域の人にとっての「安心」になりたい

──開院から1年半。少しずつ着実に「おうちにかえる」を実現してきました。今後の展望を教えて下さい。

在宅医療や「おうちにかえろう。病院」など、様々な手段を組み合わせることで、患者さんが最期まで自分らしく暮らせるような状態をつくりたいというのが当面の目標です。

それを実現するために必要なのは、まだ浸透していない在宅医療をもっと知ってもらうこと。在宅医療と言えば「介護が大変なんでしょ」とネガティブな返答が来ることが多いのですが、その固定概念も壊したい。介護と一口に言っても様々な種類があり、サポートを受けることだってできます。

そのうえで、病院の周辺地域の方にとって安心できる存在になりたいですね。「歳をとったら在宅医療を受けられて、いざというときには『おうちにかえろう。病院』に入院できる。でもまた自宅に帰ってこられて、最期は穏やかに過ごせるんだろうな」と思ってもらえるように。



さらに大きな視点で言うと、病院や医者の意識も変えていきたい。医療が発展した現代は、病気を治す時代ではなく「病気とともに生きる時代」になり、病院の役割も変化しています。これまで「急性期の治療がしたい」という医師が多く、200床以下の地域病院も急性期病院の延長線上にある「ミニ急性期」といった位置づけでしたが、これからの病院はもっと地域に目を向ける必要があると思います。

だからこそ、僕たちがつくった地域包括ケアのモデルが、全国に広がっていけば嬉しいです。すでに視察に来てくださる方は多いので、それぞれの地域に合った形で浸透していくといいなと思っています。

関連記事»人生の最期は自宅へ。5階建て「おうちにかえろう。病院」の仕掛け

文=田中友梨 写真=山田大輔

ForbesBrandVoice

人気記事