政治

2023.01.24

日章丸事件から70年、大国に翻弄されるイランから何を学ぶべきか

2023年1月15日、アラブ首長国連邦のアブダビのカスール・アル・ワタンにて。韓国の尹錫悦大統領(左)とアラブ首長国連邦のムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン大統領(右)。(Photo by UAE Presidential Court / Handout/Anadolu Agency via Getty Images)

最近、韓国とイランの関係がぎくしゃくしている。発端は尹錫悦韓国大統領の発言だった。尹氏は15日、国賓として訪問したアラブ首長国連邦(UAE)で現地の韓国軍部隊を激励した際、「我々の兄弟国であるUAEの安全保障は、我々の安全保障だ。UAEの敵、最大の脅威はイランで、我々の敵は北(朝鮮)だ」と語った。イラン外務省は18日、韓国の駐イラン大使を呼んで抗議した。イランは、尹大統領が今月、将来的な核武装の可能性に言及したとして、核拡散防止条約(NPT)に違反する可能性があると指摘した。韓国側は誤解があるとして、外交部が19日、イランの駐韓国大使を呼んで、自らの立場を説明したという。両国が近年、韓国内にある凍結された70億ドルのイラン資産を巡り、しばしば対立してきたことも背景にありそうだ。

韓国とイランの緊張した状況について、日本政府の元高官は「北朝鮮はともかく、アジアでイランとの間に信頼関係がある国はほとんどないでしょう」と指摘する一方、こう語る。「そのなかで、日本とイランの関係は特別なものがあります。70年前の遺産が今も生きているからです」

1953年、出光興産のタンカー「日章丸」が、当時孤立していたイランから世界で初めて石油を直輸入した「日章丸事件」だ。イランは1951年、英国系アングロ・イラニアン(後のBP)社の石油施設などの資産を国有化した。アングロ・イラニアンはイラン国外への石油積み出しを拒否し、英国政府も後押しした。ただ、米国がイランの石油国有化を黙認する姿勢を示すと、出光は53年2月、イランとの間で輸入契約を結んだ。日章丸は同年3月、日本を出港してイラン・アバダン港で石油を積み込み、同年5月、日本に戻った。途中、英国政府による拿捕を恐れながらの輸送だった。

複数の日本政府関係者によれば、イラン政府関係者はこの70年間、ラフサンジャニ大統領のような高官から一市民に至るまで、しばしば「日章丸事件」の話を持ち出し、日本に感謝するという。2019年6月には安倍晋三首相(当時)がイランを訪問し、最高指導者のハメネイ師らと会談した。背景にはイランとの関係見直しを進めたトランプ米政権の思惑も働いていたが、アジアのなかで日本を別格視するイランの受け止めも影響したという。
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文=牧野愛博

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