この現状が明らかになったのは、ベンチャーキャピタルのD4V(Design for Ventures)が昨年12月に発表した、日本国内のスタートアップにおけるデザインの活用・運用の実態調査に基づくレポート「Design in Japanese Start-ups 2022」だ。上場前のスタートアップ約150社に所属する経営層の回答をもとに調査した。
それによると、創業時にデザイナーが1人以上在籍していた企業は全体の5分の1に過ぎなかった。また、プレシリーズA(調達時)までのスタートアップでも、デザイナーが2人以上所属する企業は10%にとどまっている。
提供=D4V
この結果について、D4Vのデザイン・ディレクターである高橋亮氏はこう語る。
「デザイナーの役割は企業のフェーズによって変わります。当初はプロダクトを磨いて売れるものにしていくことが求められます。それが組織が大きくなると企業のカルチャーづくりやデザインを経営戦略に結びつけるようなプロセスの最適化に力を発揮することになります。しかしそれは、創業時から在籍していて、組織を深く理解していないと難しい。だから投資先には、初期の段階からデザイナーを在籍させるようアドバイスをしています」
“なんでもやる”デザイナーが見つからない
デザイナーという職種は、自らのデザインを説明する機会が多いため、言語化する能力に長けている。それが企業の打ち出すカルチャーのスムーズな浸透などにもつながるという。最近では、CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)という役職を設けるスタートアップも現れるなど、デザイナーの役割の幅は広がりつつある。「クライアントに対し、デザイナーが経営者の言葉を巧みに言語化・視覚化することで、プロダクトが無い状態でも契約を取り付けた企業もあります」(高橋氏)
また、今回の調査では、デザイナーの「採用」についても課題が浮き彫りになった。56%のスタートアップから、適切なデザイン人材を見つけられない、あるいはリーチできていないとの回答があったという。
提供=D4V
高橋氏は次のように指摘する。
「特に若いデザイナーは、1つの業務に集中する特化型の人材になってしまう傾向があります。しかし、創業まもないスタートアップでは業務の壁を超えてなんでもやらなければいけない状況がある。スタートアップが欲するような守備範囲の広いデザイナーのパイ自体が小さいため、適切な人材になかなか出会えないんです」
とりわけコロナ禍では、企業のカルチャーを浸透させ、求心力を保つにはどうすべきか苦労しているという話もよく聞かれる。そうした困難を見据えて、スタートアップとしては創業期から優秀なデザイナーを確保しておく必要もありそうだ。