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2023.01.14

「細菌を殺す細菌」スプレー 大腸菌など食品への活用に期待

carterdayne / Getty Images

米食品医薬品局(FDA)のリコール商品リストには毎年、ロメインレタスから冷凍ファラフェルまで、複数の食品媒介疾患を引き起こす大腸菌(E. coli)で汚染された食品があふれている。

米疾病対策センター(CDC)の推定によると、米国の年間の大腸菌感染者数は約26万5000人だ。そこで研究者らは、食品を消毒し感染症の発生を抑える新たな方法として、あるスプレーを生み出した。

カナダ・マクマスター大学の研究者らは、「バクテリオファージ」を活用した食品媒介疾患の予防法を開発した。バクテリオファージ(ファージとも呼ばれる)は人間の細胞には感染しないものの、その名の通りバクテリア(細菌)に感染して細菌を破壊できる便利なウイルスだ。

研究者らは科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した論文で、バクテリオファージをつなげて直径およそ20ミクロンの極小の粒(人間の髪の毛の直径は70ミクロン)を作ったと説明している。研究者らは、計約50万個のバクテリオファージをつなげて各粒を作り、約130億個のバクテリオファージの集団を構築した。

その後、高度に組織化されたバクテリオファージは大腸菌O157:H7で汚染されたロメインレタスや牛肉のステーキにスプレーで塗布された。O157:H7は、深刻な腸内感染を引き起こし、レタスや肉類を感染させることが多い。

研究者らは、スプレーが細菌の死滅にどれほど効果的かを示す対数減少を報告した。それによると、バクテリオファージのスプレーは大腸菌O157:H7を6対数、つまり99.9999%減少させていた。

バクテリオファージのスプレーは高い効果を持つのみでなく、食品に使用しても安全で、食品の味や食感、質に変化はない。さらに、バクテリオファージは対象とする細菌のみに害を及ぼすため、有益な細菌は影響を受けない。

現在では抗菌薬耐性が増えているが、バクテリオファージを活用した殺菌は、効果のない抗生物質がもたらす空白を埋めることが期待されている。FDAは1958年から、バクテリオファージとその派生物を「GRAS(一般に安全と認められる)」と認定していて、バクテリオファージは既に動物の飼料やペットフードなどさまざまな商品に使用されている。
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翻訳・編集=出田静

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