日本の役員の報酬額は、アメリカやヨーロッパとどのように違うのだろうか?
アメリカやヨーロッパの企業文化のなかには、少し遅れてから日本で広がるものもあるが、役員報酬は果たして?
近年、世界的に企業の役員報酬額は上昇傾向にある。とりわけ、10万人以上の社員を抱えるグローバル企業では、その傾向が顕著だ。この20年、例外的な産業を除き、毎年上昇している。つまり、「一方通行」なのだ。
特に2008~12年頃、アメリカやフランス、ドイツなどでは、一般社員の平均ボーナス額の伸び率が3~4%だったのに対し、役員の報酬額は6~8%と倍以上も上昇している。
その傾向は、中国やインド、トルコといった新興国にも見られる。中国やインドでは、シリコンバレー帰りの役員が、古巣と変わらぬ高額の給与をもらっていることも、全体的な報酬額を押し上げる一因になっている。
1970~80年代、株主還元への意識が高まるなか、「優秀な経営陣にも正当な対価を支払うべき」という考えがアメリカを中心に広がった。それは、映画『ウォール街』の「Greedis Good(欲深いことは良いこと)」というセリフに象徴されている。
この流れが90~2000年代に大陸ヨーロッパにも波及し、当時生まれた別の考えと合流した。「経営の透明化」だ。法律により役員報酬の開示が義務付けられた結果、他社の役員報酬もわかるようになったのである。
それまで、ヨーロッパでは他人の給与について触れることは“タブー”であった。一般社員であれば、先輩や同僚との会話、求人情報からおおよその給与額は想像がつく。しかし、役員クラスともなれば、給与の相談をできる相手がいない。だから情報開示がされるや、フランスやドイツなどでは、より高い額をもらっている他社の報酬額に倣うようになった。そうしたこともあり、世界的に役員報酬額そのものは均一化しつつある。
それでも、内訳は大きく異なる。現金に限っていえば、欧米や日本とでは大きな違いはないが、長期的なインセンティブの面で差がある。アメリカは、ヨーロッパや日本と比較して、報酬を「ストック・オプション」で支払っている割合が高いのだ。これは、アメリカの企業が株式市場から資金を調達しているのに対して、西欧諸国や日本は銀行が出資元であることに起因する。
重要なのは、報酬と税率のバランス
確かに、役員が高額な報酬をもらうことに疑問を覚えている人も少なからずいる。自分の給与と比較して数百倍も開きがあると分かった場合、そう考えるのも無理はない。
しかし、経営陣の能力が低い場合、競争の激しい今日のビジネスシーンでは、会社の存続そのものを危うくしかねない。
いま、世界の大企業は、①専門知識と高度のスキルを持ち、②同僚からの信頼が高く、そして、③社内外に人脈を持つ上級職を血眼になって探している。特に、社外に人脈を持つ人材は、情報を得たり、迅速にビジネスを進めたりできる点からも重宝される。
そうした基本条件を満たしたうえで、10万人規模の企業を経営できる人材はそうはいない。となれば、金銭的なインセンティブで惹きつけるのも一つの手段になる。だから、欧米の役員クラスは平均140万ユーロ(約1億8,900万円)の報酬を得ているのだ。
とはいえ、例えば中欧や北欧では、高い給与が支払われる代わりに納税額も高い。これらの国では、働くインセンティブになる役員報酬をむやみに減額するのではなく、モチベーションを高めつつ、税金から社会に利益を還
元する仕組みを設けているのだ。
人々の労働意欲を高め、社会の健全な発展を促すためには、双方のバランスを考えていくことが大事なのではないだろうか。