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Photo by: JTB/UIG via Getty Images



日本のナショナルフラッグキャリアとして世界の空に羽ばたいてきたJALの倒産からの再建。
そのストーリーには「全員経営」のすべての要素がある。


「全員経営」の成功事例の象徴は、日本航空(JAL)であろう。JALが会社更生法適用申請を行ったのは2010年。この大企業を再建すべく、代表取締役会長という役目を任されたのが、稲盛和夫(現名誉会長)氏だった。会長就任後、稲盛氏は独特の経営手法をJALに注入し、12年には営業利益2,000億円というV字回復を果たすに至る。その経営手法とは、まさに「全員経営」であった。

JALにやってきて稲盛氏が最初に驚いたのは、経営陣たちの資質についてである。プライドばかりが高いわりに、自分たちの会社を倒産させたという当事者意識が非常に低いことが目に付いた。そこで稲盛氏は、彼らに対して徹底的なリーダー教育を施すことを決めた。

最初の4カ月間は、稲盛自身が京セラを経営する中で学んだフィロソフィーが語られた。その根底には、企業経営は損得勘定の前に「人間として何が正しいかで判断する」という考えが横たわっていた。これを実行するには、「無私の精神」と「利他の心」を体に染み込ませる必要がある。この2つは、大企業組織特有の弊害に蝕まれていたJALにはまったく存在していない哲学であった。

4カ月後、「JALフィロソフィー」が誕生した。そこに含まれる項目を見ると、「人間として何が正しいかで判断する」「自ら燃える」「お客さま視点を貫く」「売上を最大に、経費を最小に」「ベクトルを合わせる」「一人ひとりがJAL」という言葉が並んでいる。
「JALフィロソフィー」が完成すると、次に全社員が少人数に分けられ、学び合う場が用意された。すると参加者は部門横断でグループ分けされ、普段は直接話す機会のない社員たちが共に議論することとなる。社員の意識改革が目に見える形となるのは、もはや時間の問題であった。

こうした教育とは別に社員の熱意を刺激したのが、アメーバ経営とも呼ばれる稲盛氏ならではの部門別採算管理制度の導入である。アメーバ経営は、現場のメンバーが経営の数字を変革し、時間当たりの採算を追求する仕組みである。このシステムの導入より、一人ひとりが経営者意識をもつ社員に育っていった。

例えば、荷物が軽くなれば燃料の節約に結びつくとの考えから、キャビンアテンダントたちは機内に持ち込む自分たちの荷物の重量を減らすことに取り組んだ。パイロットは、飛行機の操縦の仕方を工夫して、無駄な燃料を消費しないように心がけた。地上スタッフたちも同様に、壊れた備品などを自分たちで修理して経費削減に努めたのである。

稲盛氏が率いるJALの内部では、各自が「形式知」と「暗黙知」を相互に作用させながらSECIモデルを回し、「実践知」を発揮できるようになっていく。

アメーバ経営が機能し始めると同時に、官僚制階層組織の典型だったJALはフラクタル組織へと転換した。JALフィロソフィーとアメーバ経営がうまく根付き、どんな立場の社員であっても「経営者の意識」をもちながら仕事に向き合う組織が新たにつくられたのである。

こうしてJALは、たった2年間という短い期間で見事なV字回復を遂げることができた。ただし、これはJALだから実現したといった特別な話ではない。例えば、規模の大きさやタイプの違いはあるが、ヤマト運輸やセブン&アイ・ホールディングス、ダイハツ工業といった企業でも組織や意識のイノベーションは起きている。稲盛氏が断行したように全員経営のフィロソフィーを導入し、社員が実践知を発揮できるようになれば、どんな組織においても成長につながる変革は起こりえるのである。

文=野中郁次郎

 

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