日本防衛論は本気の転換へ

川村雄介の飛耳長目


ウクライナ侵略戦争で注目される国のひとつがフィンランドである。帝政時代のロシアと旧ソ連に度重なる侵略を受けてきた。圧倒的な劣勢のなか、これらを撃退し、いまや「世界一幸せな国」の評価を勝ち得ている。

戦後の対ソ外交に奔走した元大統領ウルホ・ケッコネンは「国家は他国をあてにしてはいけない。戦争という高い代償を払って、フィンランドはそれを学んだ」と述懐しているそうだ(『危機と人類』ジャレド・ダイアモンド)。かつてソ連侵攻に直面していたフィンランドを、米英独仏や隣国スウェーデンは見捨てた。国家存亡の本当の危機にあっては、自国以外は頼りにならない。

もちろん、現下のような国際情勢では集団的自衛権を行使できる立場も有益である。現にフィンランドがNATO加盟を決意した重要な理由であるし、日本もその有効性をフル活用すべきことは当然だ。

だが、それも自分のことはまずもって自分が守る、という意識と体制を整備してこその話である。

22年に入ってからの、日本の防衛に向けた真剣な議論と政府の前向きな姿勢は高く評価すべきだと思う。各論に及ぶと、反撃能力の具体的内容、先端兵器の整備や継戦能力の保持、防衛産業の保護育成など、重大テーマがひしめく。

わけても重要な課題が財源をどうするか、である。歳出削減も課題だが、何と言っても新たな財源捻出がキモとなる。国家全体のインフラが国防であり、全国民に均霑(きんてん)する分野なのだから広く薄い税収を基本とすべきである。国債の活用も議論されており、選択肢としては理解できないこともない。

だが、私にはいつも思い出してしまう祖父の言葉がある。「お金の使い道として株を買ってもよい。覚悟があれば商品取引もある。だが、国債だけはだめだ。お国のための一心で買った戦時国債は紙くずになってしまったよ」


川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボードを兼務。

文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN No.102 2023年2月号(2022/12/23発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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