従来の「冬は多くの人が屋内にこもるようになることから、感染が広がりやすい」とされてきた常識を覆すとともに、新たな治療法を開発するための手掛かりとなるかもしれない。
鼻腔内では細菌が侵入すると細胞が大量に液嚢を放出し、脅威となるものを攻撃、中和することがわかっている。ジャーナル・オブ・アラジー・アンド・クリニカル・イミュノロジーに掲載された研究結果が明らかにしたのは、寒さが鼻の中に引き起こす生物学的反応と、その免疫反応への影響だ。
研究チームは鼻腔内の細胞と組織のサンプルを用意し、風邪の原因となるライノウイルス2種類と、コロナウイルス1種類(新型コロナウイルスとは別)に暴露させた。
さらに、それらの周辺を室温から約5℃に低下させ、その間の免疫反応の変化を調べた。また、健康な人をボランティアとして募り、約4.4℃の環境で15分間過ごした場合の鼻の内側の温度の変化を測定した。
その結果、温度が低下すると同時に、免疫反応が大幅に低下していたことがわかった。研究者らはこれについて、「冬に呼吸器感染症が流行する理由を説明する、生物学的メカニズムを初めて確認することができた」と述べている。
また、研究結果をまとめた論文の著者の一人、ノースイースタン大学のマンスール・アミジ教授(薬学)は、「常に細菌やウイルスの脅威にさらされている鼻の免疫メカニズムと、免疫による防御機能を妨げているものが何であるかを明らかにした」と説明している。
教授によると、この結果が得られたことにより、今後の研究が目指すものは、「この現象をいかに活用し、鼻の内部のメカニズムを再現し、防御能力を高めることができるか」に変化したという。
発見の重要性
風邪などの感染症の流行と寒さに関連性があることは明らかだ。だが、一方でその関連性の理由は、いまだ明確にされていない。ただ、なぜ風邪をひくか、その理由はシンプルだ。感染するのは当然、ウイルスに暴露したからだ。
その風邪をひくという現象について、研究者らは長年、さまざまな要因を指摘してきた。寒くなると屋内にいる時間が長くなり、人がより密接に接触するようになること、運動量が減ること、ウイルスは気温が低く乾燥した環境でより長く生存すること、冬の間は日照時間が短くなることなどだ。
新たに発見された生物学的な反応に基づく説明は、これらの説のいずれに取って代わるものでもない。また、季節の変化だけが、流行の原因である可能性は極めて低いとみられる。
ただ、この研究によって新たに確認されたメカニズムは、経鼻スプレーをはじめ、新たな治療法を開発するための手掛かりになると考えられるという。
(forbes.com 原文)