「増税」年間1兆円の是非 防衛費確保のために講じるべき打ち手

馬渕磨理子の「今月の気になる数値」

岸田文雄首相が表明した、いわゆる年間1兆円の「防衛増税」をめぐって批判が噴出している。自民党で行われた会合では怒号が飛び交う展開になった。

岸田首相は、2023年度から2027年度の5年間の防衛費を43兆円規模とする方針で、2019年度から2023年度の総額の約1.5倍の金額となり、新たに十数兆円の財源が必要となる。

財源確保の対象となっているのが「法人税」「たばこ税」「所得税」だ。12月11日時点では

・法人税 7000億~8000億円
・たばこ税 2000億円強
・東日本大震災の復興特別所得税 2000億円

を確保する案が出ている。

地政学リスクが高まるなか、GDPの2%程度に防衛費を増強することは既定路線になっている。

ただ「そもそも2%で足りるのか」「防衛費を何に使うのか」といった議論も必要だ。インフラや国際協力など、直接防衛費とは関係ない費目が入るのかもしれないという懸念もある。明らかに「防衛力の中身」の説明が足りていない段階での増税はあり得ない。

現在候補に挙がる3つの税についてはどう考えるべきか。

「法人税」は企業が賃金を払った後、残った利益に対して課税するものであるため、賃上げに影響はないとの意見も見かける。しかしそうとは言い切れない。

企業は、法人税が課税されるとなれば設備投資や人的資本への投資を萎縮し、保守姿勢になるのが普通だ。経営者の決断に、数値だけでなく「不安感・気持ち」の判断も寄与することを考えれば「増税」は明らかにマイナス。

さらに、所得税への課税も、明らかに個人消費に負の影響を与える。たばこ税に関しても、健康の観点から悪者扱いされやすいが、業界側からすればなぜ自分達が防衛費を負わなければならないのか、いささか疑問に感じるだろう。

日本の企業業績は世界に比べて好調であり、OECDの2023年の経済見通しは主要先進国の中で日本だけがプラス成長の見通しだ。これから経済が復活していく過程に差し掛かっている今、なぜ水を差すような政策を打ち出すのか。

防衛は将来世代も便益を受けるので、国債を財源とすればいい。国債は国の「借金・負債」だと言うが、国内で誰かの「資産」となり循環しているのだから問題ない。増税よりもずっと建設的だ。

増税の手前にするべき、できることがある。

例えば「建設国債」だ。これなら財源確保の継続性も問題ない。

建設国債とは、もともと道路など将来世代にも受益がおよぶ場合に認められる国債。自民党内には、海上保安庁の船は建設国債をあてているため自衛隊でも認めるべきだとの意見もある。もし、建設国債が認められれば戦後初となる。

慣例に囚われずに、新しい切り口での政権運営を国民は望んでいる。「増税」によって経済が停滞するのは、歴史を見れば明らかだ。

文=馬渕磨理子 編集=露原直人

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