最初のパリ五輪は1900年。1896年の第1回アテネ大会を受け、第2回大会として開催された。次に五輪旗がパリに掲げられたのは、1924年の第8回大会。そして、2024年のパリ五輪は、そのちょうど100年後に当たる。
100年ほど前、詩人の萩原朔太郎は「ふらんすへ行きたしと思へども、ふらんすはあまりに遠し」と歌った。その朔太郎の言葉を借りれば、いまやフランスもパリも「新しき背広をきて、きままなる旅に」出かけられる場所となった。
とはいえ、確かに100年前と比べ近くはなったが、フランス、特にパリは日本とは異なる歴史と文化を持っている。実はその文化の差は、私たちの何気ない日常にも潜んでいる。例えば、ものの名前、その命名する行為のなかにも顕著に文化の差異が読み取れるのだ。
東京に「夏目漱石駅」はない
パリと聞いて、すぐに思い浮かべるものの1つに、エッフェル塔があるだろう。東京で言えば「東京タワー」に当たるだろうが、パリには「パリタワー」はない。
前々世紀の1889年(明治22年)に完成したエッフェル塔は、ギュスタフ エッフェルという建築家の個人名からとられたものである。翻って東京タワーは、内藤多仲氏により設計されて1958年(昭和33年)に竣工したが、「内藤タワー」とは呼ばれることはなかった。
ここに、名前の付け方として、日本とフランスの2つの考え方が浮かび上がってくる。「人名」か「地名」かの選択である。
1900年に開通したパリの地下鉄の駅名に目を向けてみる。凱旋門に最寄りの駅は「シャルル ド ゴール エトワール駅」だ。もちろんフランスの第18代大統領でもあったシャルル·ド·ゴール将軍の名前に由来するものだ。
また同様に、パリの国際空港である「シャルル·ド·ゴール空港」もすぐに思い浮かぶ。ただ、興味深いのはシャルル·ド·ゴール空港は、タクシー運転手たちなどの間では、パリ郊外の地名にちなんで「ロワシィー空港」と呼ばれることもある。しかし、これは同じ近隣の空港であるオルリー空港やル・ブルジェ空港と区別するためであろう。
バリのモンマルトルの「ピガール駅」は、18世紀に生きた彫刻家ジャン=バティスト・ピガールの個人名から取られたものだ。「ヴィクトル ユーゴ駅」「エミール ゾラ駅」「ヴォルテール駅」「フランクリン ルーズベルト駅」「アナトール フランス駅」「ピカソ駅」など人名に由来しているパリの駅名の例を挙げればきりがない。
ところが、東京に人名をべースにした駅名があるだろうか ? 例えば、「福沢諭吉駅」「夏目漱石駅」「渋沢栄一駅」はあるだろうか。日本には、人名を付けるという発想はあまりないのかもしれない。ほとんどが土地名にならって、東京駅とか品川駅とかに命名されている。