テクノロジー

2015.06.08 12:31

バーチャルリアリティがジャーナリズムを変える時

カリフォルニア州モントレーで開催されたTED Women会議にて視聴した最新作の「Kiya」 (Photo: Marla Aufmuth Courtesy TED)



元「ニューズウィーク」誌特派員でジャーナリストのノニー・ドラペーニャは、5年前、ロサンゼルスの貧困の問題を取材したいと思った。しかし、単純に記事を書いたり、ビデオを制作したくはなかった。

「心だけでなく、身体全体に訴えかけるようなものができないかと思ったんです」

先週、カリフォルニア州モントレーで開催されたTED Women会議の場で、彼女はそう話した。

ドラペーニャ選んだ手法はバーチャルリアリティだ。フードバンク(食料支援施設)に並ぶ人たちの様子を、まるでその場に居合わせたかのように体感できる彼女の作品「ロサンゼルスの飢え(Hunger in Los Angeles)」は2012年のサンダンス映画祭で上映された。観賞後、ゴーグルを外した人々の目には涙が浮かんでいた。

「当初はジャーナリズムとバーチャルリアリティを組み合わせるのは、非常に悪い考えだとされ、同僚の多くに笑い飛ばされたほどでした」

そう語る彼女は今やバーチャルリアリティの「ゴッドマザー」と呼ばれ、彼女の会社Emblematic Groupは、様々な社会問題に人々の関心を高めることを目的としている。

彼女のチームが生み出す作品を通じ、視聴者はシリアの街中で突然起きた爆撃の現場に居合わせることができる。また、国境警備員が不法移民たちを殴り殺す様子を見られる。

TED Women会議に参加した筆者はOculus Riftのヘッドセットを装着し、最新作の「Kiya」を視聴した。この作品は銃規制の問題をとりあげたもの。3人姉妹が暮らすアパートの部屋にある日、その中の一人の別れたボーイフレンドがやってくる。目の前で激しい言い争いがはじまり、やがて男は銃を取り出した。筆者は全身に震えが走り、思わず身を乗り出そうとしたほどだ。

ドラペーニャはバーチャルリアリティをジャーナリズムに用いることは、大きな責任がともなうと自覚している。事実を正確に伝えることに注意を払い、作品の素材には911の緊急通報電話の音声データなどを用いている。

「こうした作品の制作には、非常に慎重に取り組む必要があります。ジャーナリズムの基本的原則はここでもあまり変わりません。ただし、一つだけ大きく違うのは、現場に居合わせた感覚が得られる点。人が目の前で空腹で倒れるのを見たり、殴られている様子を見て、それが自分の身に起こっていることのように実感できるのです」

文=エレン・ユエ(Forbes)/ 編集=上田裕資

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