ビジネス

2022.12.03 19:00

SDGs教育で拓け、境界のない社会

「水分補給のためにマイボトルを使用してみませんか」。HI合同会社代表の平原依文が問いかける。運輸会社でのSDGs経営コンサルティング中の一幕だ。

環境に優しい流通を目指すが、物流需要は多くCO2排出減は思うように進まない。トラックのドライバーたちは夏場は一日に4、5本のペットボトル飲料を消費するという。走行量が減らせないなら、消費するペットボトル飲料の数を減らすことで環境に配慮しているとステークホルダーに示すことができるのではないか──。

容量の大きいマイボトル導入の検討も進め、従業員は環境・健康意識が高まったという。対社外だけでなく、社内の従業員の幸福にもつながった事例だ。

これまでも共同代表を務めるWorld Roadを通してSDGs教育プログラムを自治体や教育機関と協力して手がけてきた平原。今年、自身の夢である「社会の境界線を溶かす」を実現するために、HI合同会社を立ち上げた。SDGsを軸に、持続可能な社会のあり方やビジネスモデルを追求している。平原を突き動かすのは「国籍や性別、障害、肩書などあらゆる境界線を溶かしたい」という強い思いだ。

幼少期、両親が当時まだ珍しい事実婚だったことを理由にいじめられた。「私の家族が特別だからいけないのかな」。声をあげられなかった平原は、中国人の転校生が、新しくいじめのターゲットになってもひるまずに周りと接する様子に衝撃を受ける。

「中国ってこういう国なんだよ」。自信をもって話す同級生に憧れ、8歳で中国へ留学。初めは中国語を話せずなじめなかったが、先生が平原の好きな『クレヨンしんちゃん』の中国語版アニメを見せてくれ、少しずつ言葉を理解する。

「中国語で同級生とアニメや文房具の話をして打ち解けられた。」国籍の境界が溶けた瞬間だった。興味を軸に学習し自分の言葉で伝える大切さを知り、そうした教育を日本でもしたいと考えるようになった。「経験に正解はない。SDGs教育を通して自分の軸をもつ人を増やし、境界線をなくしていきたい」

平原依文◎1993年、東京都生まれ。World Road 共同代表、HI合同会社代表、Fun Group執行役員チーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)。中国、カナダ、メキシコなどへ留学後、早稲田大学を卒業。ジョンソン・エンド・ジョンソン等を経て、2019年にWorld Road、22年にHI合同会社を設立。青年版ダボス会議の日本代表も務める。

文=菊池友美 写真=帆足宗洋(AVGVST)

この記事は 「Forbes JAPAN No.098 2022年10月号(2022/8/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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