第四次産業革命が求める人材、三つの能力

田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

現在の政権は、その発足に際して、「令和版・所得倍増計画」を掲げた。その後、各方面からの批判を受け、いつの間にか、その政策が「資産所得倍増プラン」になっているが、実質賃金が大きく低下する中で、国民の圧倒的多数は、所得の大幅向上を望んでいる。

では、国民の所得向上のために、政府が真に為すべきは、何か。

実は、いま、政府が直視すべきは、これから、国民の所得を低下させるばかりか、雇用そのものを破壊してしまう荒波が到来することである。

それは、「第四次産業革命」という荒波。

すなわち、これから社会の隅々に、ロボティックスやAI、自動運転技術やドローン、VRや3Dプリンターなどの最先端技術が導入されていき、企業の生産性と収益性は向上していく。しかし、残念ながら、その収益は、多くの労働者には分配されず、むしろ、これらの技術で代替できる仕事に就いていた労働者は、仕事を奪われ、結果として、賃上げどころか、深刻な失業に直面することになる。

この荒波の到来は、単なる理論的予測ではなく、この革命の先進国では、すでに現実となっている。

なかでも、特に深刻なのが「AI失業」である。

職場へのAIの導入が進むことによって、知識労働者も、その多くが仕事を失っていく。特に、論理思考と専門知識だけで仕事をしていた人材は、確実にAIに淘汰されていく。それは、花形職業と思われてきた弁護士や会計士、金融業も例外ではない。

では、この第四次産業革命によって必然的に生じる「雇用の喪失」を避けるには、どうすれば良いのか。どうすれば「所得の向上」を実現できるのか。

答えは明確である。そのためには、労働者の「能力の向上」をこそ図らなければならない。特に、大量のAI失業を避けるためには、知識労働に携わる人材は、産業と職種を問わず、AIでは決して代替できない高度な能力を身につけなければならない。

では、その高度な能力とは、何か。世界中の専門家は共通に、次の三つの能力を挙げているので、筆者の予測コメントを付して、述べておこう。

第一は「マネジメント」の能力である。しかし、マネジメントの中でも、資材管理や資金管理、人事管理やプロジェクト管理などの「管理」と名の付く仕事は、いずれ、その大半をAIが担うようになる。その結果、人間に残される高度な仕事は、メンバーの成長を支える「成長のマネジメント」や、メンバーの心を支える「心のマネジメント」になっていくだろう。

言葉を換えれば、我々は、コーチング的能力やカウンセリング的能力を身につけ、磨いていかなければならない。また、権限や権力を背景にした「指示・命令型マネジメント」は、AIでも代替できる水準のものであり、AI時代には、理念やビジョン、志や使命感、そして人間力に基づく「共感・支援型マネジメント」こそが、人間だけが行える洗練された仕事になっていくだろう。
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文=田坂広志

この記事は 「Forbes JAPAN No.097 2022年9月号(2022/7/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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