第二は「ホスピタリティ」の能力。しかし、これも、言語的コミュニケーションによる顧客対応は、いずれAIが代替していくようになる。そのため、人間に求められるのは、非言語的なコミュニケーション能力、すなわち、顧客の無言の声に耳を傾け、相手の気持ちを察し、細やかに対応する高度な能力であり、洗練されたホスピタリティ能力である。
第三は「クリエイティビティ」と呼ばれる能力。しかし、これも、新しい技術を発明したり、斬新なデザインを考案するといった高度な創造性は、誰でも発揮できるものではない。むしろ、これからの時代に、誰もが身につけ、発揮できる創造性とは、人間集団の中にあって、その集団の「集合知」を活性化させ、その集団から新たなアイデアやコンセプトが生まれてくることを促せる能力、いわゆる「ファシリテーション能力」と呼ばれるものである。
いま、AI革命を例に挙げ、これからの時代に求められる人材の条件を述べたが、政府は、真に国民の雇用を守り、所得の向上をめざすのであれば、これから到来する第四次産業革命を超えていく人材の条件を具体的に示し、国民一人一人の能力開発を手厚く支援すべきであり、そのための戦略的な人材投資にこそ、最大の力を注ぐべきである。
ただし、それは、「AI時代には、AI技術者の育成を」といった視野の狭い人材投資論ではない。
それは、第四次産業革命の時代の先を見据えた、すべての職業・職種における能力開発の支援政策であり、世界に先駆けた、全く新たな「人材立国」のビジョンに他ならない。
田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、多摩大学大学院名誉教授。シンクタンク・ソフィアバンク代表。世界経済フォーラム(ダボス会議)Global AgendaCouncil元メンバー。全国7300名の経営者やリーダーが集う田坂塾・塾長。著書は『知性を磨く』など90冊余。