実際、現在のような傾向が続けば、ウクライナはロシアをも打ち負かすことのできる欧州で最も強力な軍を持ち、戦闘の試練に耐えて異常に鍛えられた軍隊になっているかもしれない。そのような予想外の現実を考えた時、戦後のウクライナの位置づけはどうなるのだろうか。
軍事政策や外交政策の専門家が戦争を終わらせる可能性のある方法を議論するとき、通常、ロシアが2014年以降に奪った領土すべてを含めてウクライナから完全撤退するか、クリミアなど奪い合っている地域で正当な住民投票を実施する、あるいはロシアが撤退する代わりにウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟しないことに同意するという何らかの取り決めといったコンセプトを議論する。
いずれも論理的だが、戦場の現実を考えるとこれらの提案の一部または全部は非現実的かもしれない。しかし、このような可能性を議論をするとき、専門家はウクライナ軍とそのウクライナ国民の現在のパワーと断固たる決意を否定しているように見える。現実問題としては、西側諸国やロシアの外交官が望むような未来ではなく、今のところ紛れもない戦場の現実を考えれば、ウクライナ人が実際に受け入れるような未来が待っているかもしれない。この紛争の帰結がどういうものになるか予測は難しいが、少なくとも現時点では、ロシアが侵攻する直前の現状に戻すだけという交渉結果をウクライナ人が受け入れる可能性は極めて低い。「戦利品は勝者のもの」ということわざどおりだ。
ウクライナ人の勇敢さとウクライナの指導者の勇気に世界が釘づけになる一方で、独立していた30年近い間、同国は世界の模範となるような国にはならなかった。腐敗で有名な同国はハンター・バイデンとの怪しい取引に絡んだ。プーチンのいう「現在のウクライナ政府はネオナチだ」という主張はほとんど正確ではないようだが(もちろんウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領はユダヤ人だ)、ウクライナ社会にも軍隊(アゾフ大隊など)にもネオナチ要素があることは間違いない。彼らはどうなるのか。ウクライナのユダヤ系大統領という絶大な威光によって彼らは衰退してしまうのか、それともウクライナの新たな力によって鼓舞され、同国のみならず欧州全域で自己主張と人種差別的イデオロギーの拡大を試みるのだろうか。