中国側が問題視しているのは、この法律に盛り込まれた米国内での半導体生産への520億ドル(約7兆8000億円)の補助金とみられる。中国政府は、これによって西側諸国からの投資が抑制されるとみているようだ。
中国にとっては投資資金ももちろん大事だが、投資によってもたらされる西側の技術へのアクセスも同様に重要だ。中国にしては異例なことだが、これら2つの面での対外依存を中国政府は隠そうとせず、米半導体メーカーの国内志向は中国の半導体産業育成を遅らせることになるとも公言している。
自国の科学技術力の高さを誇示してやまない中国から、このような言葉を聞くのは奇妙に思える。それは、中国が西側の技術革新に依存しているとみずから認めているようなものだからだ。こうした発言は、中国の差し迫った必要性を示すものでもあるのだろう。現状では、中国の半導体産業は現時点で国内需要の10〜15%程度しか供給できていない。
在ワシントンの中国大使館はCHIPS法について、「断固反対」すると表明し、「冷戦時代のメンタリティー」を想起させるとも非難している。中国商務省も、この法律は「国際貿易を混乱させる」などと主張している。中国半導体産業協会の会長は、CHIPS法の一部は「公正な市場原理に反している」とし、「中国の競合相手に救いの手を差し伸べるものだ」と批判している。
一方の米政府は、台湾と新たな貿易協議を始めることも決め、中国との緊張にさらに拍車がかかっている。
ただ、CHIPS法によって半導体メーカーのたどる道が変わってくるのかと言えば、現時点ではよくわからない。中国最大の半導体メーカー、中芯国際集成電路製造(SMIC)がオランダの半導体製造装置大手、ASMLの最先端の紫外線露光装置を入手するのを米政府はたしかに制限したが、これはCHIPS法とは関係がない。
また、インテルや台湾積体電路製造(TSMC)は、この法律に呼応したかのように米国内の新たな半導体工場について宣伝しているが、これらのプロジェクトは法案が議会で通過間近になるずっと前から計画されていたものだ。
インテルやTSMCなどによる米国での工場新設計画は、米政府の支援を見込んだものというよりは、コロナ禍などにともなうサプライチェーン(供給網)の混乱に対応した動きだった。もちろんこうした取り組みはCHIPS法によって促進されるだろうが、この法律がなくてもおそらく前進していたはずだ。
いずれにせよ、CHIPS法に対する中国の姿勢はかなり欺瞞的だと言わざるを得ない。中国政府も長年、国内の製造業に補助金を出したり国内調達のルールを課したりしてきた経緯があり、その規模や程度は米国がCHIPS法などで講じた措置をはるかにしのぐものだからだ。一例を挙げれば、中国は国内半導体産業の育成・発展のために2030年までに1500億ドル(約22兆円)の補助金を拠出する方針を示している。
中国政府が今後どのような対抗措置を打ち出し、それに米政府はどう反応するのか。現時点ではいずれも不明だが、米政府がこの問題をめぐって中国に譲歩することはおそらくあるまい。
(forbes.com 原文)