こうした食生活の変化に関する新聞報道は、今世紀初めに広く批判された気候変動に関する報道を思い起こさせるものだ。当時も科学者がコンセンサスに達した後も、地球温暖化の原因が人為的であるかどうかには議論の余地があると報道されていたと、今回の研究は指摘している。
研究を行なったメリーランド州のトーソン大学とウィスコンシン大学の科学者たちは「高所得国では、気候変動に対処するために温室効果ガス(GHG)の削減を目指すだけでなく、資源使用(たとえば土地や水)や汚染を削減するためにも、動物性食品から植物性食品へと食生活を転換する必要があることを示す明確な科学的証拠がある。しかし、多くの新聞記者が『両論』を提示しているため、この問題が結論の出ていないものとして扱われている」と書いている。
10年前、メディアはしばしば、気候変動の現実と緊急性について大衆を欺く、安直な「あの人はこういった、この人はこういった」という報道をしたということで批判されていた。こうした報道は別名「間違ったバランス報道(false balance reporting)」としても知られている。最近発表された、また別の研究の中では、ノースウェスタン大学の研究者たちが、そうした報道を「bothsidesism(バランスを欠いた両論併記)」と呼んでいる。
反対の立場を探ろうとする記者たちは、しばしば温室効果ガス汚染に関与している業界の代表者に目を向けてきた。そうしたことで、産業界がジャーナリストや読者を騙し、気候変動への対応を遅らせる機会を与えてしまったのかもしれない。
新しい研究はこれまでを振り返り「気候変動に関するメディア報道は、人間が原因の気候変動が起きているという明確な科学的証拠があるにもかかわらず、長年にわたり『両論併記』のアプローチを一般的に用いてきた。そして、メディアに登場する気候変動否定論者は、気候変動に対処する動きに反対しようとしている産業と、しばしば経済的なつながりを持っていた」と論じている。
そして論文の著者たちは、同じ動きが動物性食品からのシフトの必要性を取材する過程でも再び起こっていると指摘している。
「ジャーナリストたちは牛肉生産の効率化、責任ある放牧そして新たに 『再生型(regenerative)』牛肉生産と名づけられたものの利点を強調する米国畜産協会の代表者の発言を定期的に引用している」
タウソン大学健康科学部のジリアン・フライ助教授率いる研究チームは、2018年から2020年にかけて米国の29の新聞に掲載された238の記事を調査した。調査対象となったのは、植物性食品への移行と食品廃棄物の削減という2つの課題についての報道の比較だった。