藤井風「死ぬのがいいわ」がZ世代に支持される理由


「死ぬのが」に重ねられる、推しへの愛


Tiktokを中心とした動画サイトでも、インパクトのある歌詞に触発されたと思われるファンメイド作品が多く見られる。投稿されているのは、いわゆる「歌ってみた」系の動画だけでない。

アニメのキャラクターや現実に存在するアイドルなど、「推し」の映像に『死ぬのがいいわ』を合わせた動画が数多く投稿され、人気を獲得しているのだ。「推し」に対する投稿者の深い愛情だけでなく、「推し」自身の深い愛情を表現していると思われる動画も散見される。

こうした現象は、何も日本語圏のみで留まるものではない。『死ぬのがいいわ』の歌詞はあらゆる言語に翻訳され、拡散されているのである。当然、今回の火付け役となったタイも例外ではない。

日本のアニメやマンガのキャラクターを登場させ、『死ぬのがいいわ』を使用した動画に、タイ語の歌詞の字幕が添えられていることだってまったく珍しくないのだ。すなわち、「死ぬのがいいわ」は声や曲調だけでなく、歌詞も含めて全世界に評価されたうえで「バズっている」のである。

音楽配信サービスや動画サイトの普及により、私たちの手に届く楽曲の数は爆発的に増加した。それは私たちが他国の楽曲に触れる機会が増えたことを意味すると同時に、他国の人々が日本語の楽曲に触れる機会が増えたことも意味する。

先述した通り『死ぬのがいいわ』は二年前に発売されたアルバムの一曲であり、シングルカットやタイアップを伴ったものではなかった。それが数年を経てタイで「再発見」されるなどとは誰も想像していなかっただろう。

今や時代や場所を問わず、配信されているあらゆる音楽に同様の機会が存在するのだ。これは、少し前ならば考えられなかった事態であり、同時にチャンスでもある。

今後、何らかのきっかけで第二の藤井風、第二の『死ぬのがいいわ』が登場するだろう。そしてそれは、何もこれからリリースされる楽曲の中から現れるとは限らない。私たちが一度は耳にしたことがある、しかし大勢に忘れ去られてしまった過去の一曲なのかもしれないのだ。

新たな流行を拾い上げるのは、やはり様々なSNSに精通しているZ世代なのだろう。彼らは次々と生まれるトレンドを分け隔てなく、かつ自分なりに捉えていくはずである。コミュニケーション用語としての『死ぬのがいいわ』に取って代わる、新しい言葉が見つかるのもそう遠い話ではないに違いない。



松尾優人◎2012年より金融企業勤務。現在はライターとして、書評などを中心に執筆している。

文=松尾優人 編集=石井節子

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