楽しそうな空間に「働き方や生産性はどう変わるのか?」と気になる人も多いだろう。革新的なオフィスを次々と創り出している日建設計の新領域開拓部門である「NAD(Nikken Activity Design Lab)」に話を聞くと、なぜオフィスが必要なのかという根源的な課題に行き着いた。
コロナ禍を経て働き方が大きく変わる今、進化系オフィスは働く人に何をもたらすのか。
コスト削減ではない自由なオフィス
NADへの質問を切り出した際に、「オシャレオフィス」という言葉を使った。その言葉の薄さに気づくのにそう時間はかからないことになる。
「オシャレに見えるかもしれないが、そう単純ではない。まず、オフィスで働く人が『ここが自分たちの働く場所だ』と愛着を持てるような状況をつくりたいんです」
NADのダイレクターであり、チームを指揮する勝矢武之は言う。NADは日本を代表する日建設計の新領域開拓部門として2013年に誕生し、これまで三井物産本社や、IHIイノベーション拠点「i-Base」、ヤマハモーターイノベーションセンター、法人向けシェアオフィス「ワークスタイリング」など、数々のクリエイティブなオフィスを手掛けてきた。
NAD ダイレクター 勝矢武之
NADがオフィスを手掛ける際、そのベースにあるのは「Work at your best」というコンセプトだ。
「例えば、ひと昔前のフリーアドレスで好きな席に座るというスタイルには、コスト削減という側面が多分にありました。一方、僕らがたどり着いた『Work at your best』という考え方は、集団ではなく『個』に焦点を当て、自分の置かれた状況に合わせて好きな場所を選び、ベストパフォーマンスを発揮してもらおうというものです」
フリーアドレス ≠ イノベーション
こうした考え方に至った背景には、あらゆる建物とオフィスを手掛ける中で実感した、「オフィスと社会の変化」がある。
「デジタル化によってモノの制約から解放され、人々はどこでも働けるようになりました。しかし、フリーアドレスにしただけではイノベーションにはつながりません。ビジネスにデザイン思考が求められる今、立場を越境してさまざまな人が集まり課題解決をする必要が出てきました。そこで、我々が10年前から提案していたのが「フューチャーセンター」です。部署の垣根を超えて集まれる場所を設けてブレイクスルーを起こし、イノベーションにつなげる起点のような場所です」
加えて、働く人にも変化は起こっていると指摘する。
「SNSなどで人々がつながり、相互に承認しあう社会となった今、特にZ世代を中心に自分個人の体験中心に人生を豊かにしようという流れが生まれています。歯車として会社に尽くすのではなく、ビジョンに共感できる会社を選び、やりたいことを実現したい。そんな時代にあっては、社内も上下関係ではなく、共感によってつながっていきますし、企業側は働く人がエンゲージメントを感じられる場を提供する必要が出てきます」
こうした変化と前後して起こったコロナ禍を機に、空間からの解放が加速し、オンラインとリアルが同等になった社会状況がポイントになる。
「オンラインで仕事はできますが、人とのつながりまでは実感しづらい。だからこそ、個人が働く場としてではなく、リアルに集まって価値観を共有し、エンゲージメントを感じられる場としてのオフィスが求められているのです」
生の声。自分ゴト化してもらうワークショップ
さまざまな変化を経た今、オフィスに求められるのは、コミュニケーション・イノベーション・エンゲージメントの3つだと勝矢は言い切る。では、そうしたオフィスをどうやってつくるのか。