せめて月に一度、可能なら二度でも三度でも、誰にも邪魔されず、リモートワークでも、寛ぎでも、遊びでも、自分のために滞在してみるといい。
日本のホテルは旅館の歴史と相俟って、伝統的かと思えば西洋のホテルのごとくスタイリッシュに最新鋭設備を纏う、東西融合の技や感性はピカ一だ。もてなしも、デザインも、世界レベルへと進化を遂げている。
まずは週末、金曜日の夜にチェックイン、ゆったりと日曜日が終わるまで、我儘な時を満喫するのが大人のホテルの流儀である。
ホテルジャーナリスト せきねきょうこ
緑に包まれて過ごす、森のホテルの閑静な週末
避暑地として古くから憧れの的であった軽井沢も、今年の夏は暑い日が続いたようだ。とはいえ、軽井沢の標高は800~1000mほど。森を抜けて頬をなでる風は都会では味わえない快適な涼しさを運んでくれる。そして今、都会の残暑をしり目に軽井沢には秋の気配が訪れた。わずか1時間ほどで行ける軽井沢に週末の癒しを求めて足を運ぶ、贅沢だが最高の転地療法だ。
その軽井沢の木々に包まれた一角に「ししいわハウス」が佇んでいる。まだ紅葉は始まってはいないが、「ししいわハウス」は建物の全貌が見えないほど高木に包まれている。それにスタイリッシュでシンプルな建物の前景からは、コンセプトが透けて見えるようで不思議である。木と紙管が使われているというユニークなコンセプトと哲学、すっきりと美しいデザイン、環境にこだわるホテル造りだ。
シンプルな中にも高級感を漂わせた外観からは、一瞥しただけで特別なホテルなのだというオーラが伝わってくる。そのせいか、ハイエンドなホテル通や感性の鋭いホテル愛好家がここに多く集まってくるのだ。
森に溶け込むように造られた優しい曲線の屋根が印象的。「建築にはあなたを幸せにする力がある」という建築家、坂茂氏の言葉に納得。
ホテルの創業は2019年2月、極寒の軽井沢が白く輝く真冬の時期に静かにオープンを迎えた。「ししいわハウス」は、独特な建築技法ばかりか、デザイン、アート、独創的な料理やワインのコレクションなど、軽井沢の‘贅’と自然との一体感を感じながら過ごすリトリートとして存在感を増している。
ホテルの掲げる基本のテーマは「ソーシャル・ホスピタリティ」だ。つまり、客室はプライベートな造りで、窓の外に迫る自然を眺めながら静かに過ごす場。そして3つのヴィラ、全10室には、滞在者が自由に集える“リビング”のような共有スペース「コミュナル・スペース」がヴィラごとに造られている。
このスペースでは、知らない人かもしれない、友人や知人かもしれない滞在者が自由に集い、客室とは異なり、“一言から始まるコミュニケーション”の場として活用できるようソーシャルな空気感が演出されているのだ。
エントランスを入ったところの空間、ライブラリー。日本の建築物では最大級の木枠のガラス戸から自然光が入り、外の森との一体感が味わえる。
皆が集えるグランドルーム。「ししいわハウス」での滞在ではゲストが時間を共有し思い出をシェアできるよう50mほどの建物が1本の線でつながる設計に。