ビジネス

2022.08.15

ヒントは百貨店にあり。ネットxリアルの新たな価値

中山亮太郎のビジネス夜明け前

オンラインとオフラインの体験を融合させるとはどういうことか。マクアケ創業者が見いだした方程式は、足し算ではなくかけ算だ。


16万人超を集める巨大イベント「ニコニコ超会議」の立ち上げ人で、「超歌舞伎」なども仕掛けるドワンゴ専務取締役CCOの横澤大輔氏が、4月、ニコニコ動画全体の責任者に就任した。ネットユーザーの感覚をリアルの世界で表現して生活者に熱狂を与えている人が、インターネット的なサービスの代表格といわれるニコニコ動画の総合責任者に就任したことは、私にとっても注目の出来事だった。

ネットの体験とリアルの体験の融合に関しては、もう何年も前からOMOやオムニチャネルという概念が提唱されてきたが、本当の意味で一体化した体験を提供できているサービスは少ない。そのなかで唯一、ネットとリアルのシームレスな世界観をつくり出していたのが、ニコニコ動画とニコニコ超会議の醸す熱狂体験だと私は思う。

しかし、勘違いしていたことがある。ネットでの体験をそれに近いかたちでリアルでもできるようにすること(もしくはその逆)が、ネットとリアルの融合の幹だと私は考えていた。ところが横澤氏は、大切なのはネット体験のリアル化やリアル体験のネット化ではなく、「ネットでできることとリアルでできることを徹底的に重複させないこと」だという。

これにより、オリジナルな体験がそれぞれに生まれ、相乗効果で楽しさが増幅する。ネットとリアルを区別せずトータルでの体験をプロデュースし、両者の役割は完全に分ける。その意味で、デジタルトランスフォーメーションでもなく、リアルトランスフォーメーションでもない考え方が重要だという。これはとても示唆に富む話だった。

私がこのタイミングでネットとリアルの体験の関係性に注目するようになった背景には、ある変化の胎動がある。
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文=中山亮太郎 イラストレーション=岡村亮太

この記事は 「Forbes JAPAN No.097 2022年9月号(2022/7/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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